小話

□素敵な恋がしたい
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「馬鹿め」

「も、申し訳ありません」

「あれ程手を出すなと言っておいたのに」

「し、しかし大お・・・」

「黙れ。己の立場も、力量さえもわからぬか。
・・・もうちょっと賢い子だと思ってたけどね」


そう言って閻魔は、目の前で震えている獄卒の頬を手の甲ではたいた。
すると、そこからぐぁんと空間が歪んで、鬼が目を見開く。


「あ、あっ・・・!」

「君、もうすぐ終わりだったのに。残念だよ」


鬼が歪みに飲み込まれていく。
嫌だと鬼が泣きながら喚いて、手を伸ばすが閻魔は無表情でそれを見つめるだけだ。

嫌だ嫌だと鬼がなく。


「もう一度、行っといで」

「閻魔様ぁ!」


ぐじゅり

鬼が空間に食われた。





ふぅ、と閻魔が近くの椅子に腰掛ける。
己がしたことなのに、ほろほろと涙が零れてきて止まらない。悲しくって仕方がなかった。


「俺を好きになんて、なるからだよ」


先程歪みに飲み込まれていった、己の秘書だった鬼を思い出しながら。
己に言い聞かせるように、静かに呟いた。
もうすこしであの子の罪は許されるはずだったのに。
もうすこしで輪廻の輪にかえれるはずだったのに。

彼は鬼が触れてはならぬ所にまで触れてしまったから、その罪を償わなくてはならない。


「あー、ちくしょー・・・」


天井を見上げてみるが、やはり涙は止まらなかった。
彼が、これから地獄であのような恐ろしい仕事をせねばならぬと思うと悲しくて、胸が痛くて仕方が無かった。



「オレは、いつになったら」




閻魔が言いかけて、嗤った。





「分かっちゃいないのは、オレの方か」








**********
大王が好きすぎてちょっと突っ走ってしまった秘書鬼君と、そんな鬼君に罰を与える大王。鬼男君が来る前の大王の話でした。

イメージで書いたがためにわけがわからない。





「素敵な恋がしたいだなんて、オレが思っていい事じゃない」




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