小話

□魚と人間の話
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そいつは私にこう言った。


「死ぬくらいならイメチェンしてみたらどうだ?」


池の底が気になったから入って沈んでいただけなのに、何を勘違いしたのかそう微笑みながら、言った。

私はそいつに横抱きにされながら、ただただそいつの後頭部の美しさに見惚れていて、話なんぞ聞いていなかったが


「あぁ」


なんともそいつの声が美しいものだからうっかり返事をしてしまった。


それから、私は世間で壊れた可哀相な人間になった。









「おい魚」

「おや、人間、久しいな」


数十年たって私も若く無くなったのだけど、未だ壊れたままだ。

魚の言うイメチェンは成功したわけだ。中身はこれっぽっちも変わってはいないが、表はもう世間では知らぬ者はおらぬ程の馬鹿者になっていた。

馬子さんにはなんとなくバレているようだが、面倒なので「馬鹿」の振りを続けている。


正直、色々と楽だからイメチェンなるものをして良かったと思う。



「どうした、18日と14時間36分9秒ぶりじゃないか」

「どうした、じゃあないぞ魚。面倒なことになった。どうやら私は隋に行くらしいぞ?お守りと言う名の監視に若い男を連れてだ」

「おやおや馬子殿は止めなかったのかい」

「その馬子さんが、隋に行かせて私の中身を見ようとしているらしい、全くもって面倒だ」


そう、そうなのだ。面倒なことに私はどうやら冠位5位の男を供に隋に行かねばならぬらしい。

隋に送る人間を選べと言うから選んだのに、まさか共に行くことになろうとは。


「どんな子なんだ?」

「小野妹子という男だ。なかなかにやる、が私は好かん」

「そう」

「ああ」


それだけ話して小野を呼んであるからと魚の池を後にした。

そういえば、あの池に通い出して随分経つが私はあいつの名前をまだ知らない。


「変な魚もいたものだ」




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