小話

□破滅に憧れる僕
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消えてしまえばいい、滅んでしまえ。
そうすれば僕はこんなことをせずにすむのだから。

本当に、消えて無くなってもらいたい。



「きゃああぁ!」

「ぎゃあーっ!おっ、おおおっ鬼男くぅうううん!助け・・・ひぃあああ!」


女性職員と情けないオッサンの悲鳴が聞こえて、僕は手に持った丸めた新聞紙を握り締めた。

まだ、いやがるのか。


「とっとと成仏しやがれこの虫っころがぁああ!」


床を這う茶色い気味の悪い虫目掛けて力一杯に新聞紙を振り下ろす。


「ぎゃあああ!鬼男君やるなら一発で仕留めて!こっち飛んできぎゃあああああ!」

「ちぃっ外した!」


なんとも騒がしく嫌な羽音をさせながら、そいつは硬直しているオッサン、大王に向かって飛んだ。すばしっこい上になかなか死なないこいつはかなりの強敵だ。

だが、倒さなければならない。何故なら


「うわぁああ!こっちくんなよー!」

「きゃああぁ!」


こいつが発生すると、死者の裁きどころじゃなくなるからだ。女性職員はまだわかる。が、なんでいい年こいたオッサンがこいつにそんなきゃーきゃー騒いでんだよ!


「一緒に駆除しろよこの腰抜け!」

「無理!無理無理無理ぃ!」



無理だろうと思いつつも大王にも、手伝えと丸めた新聞紙を投げ付ける。へぶぅとかなんだとか言って顔面で受け止めていたが、このさい無視だ。今は目の前の敵に意識を集中させろ!


「っくらえ!」


そいつが油断したのか、動きを止めた所に勢いよく新聞を振り下ろす。これで終いだ!

バシーン!

となんとも気持ちの良い音が、裁きの間に響き渡った。・・・・・勝った!



「ああぁー!ちょっと鬼男君!絨毯じゃない所で潰してよ!」

「あぁ?ったく文句言うんなら自分でやってくださいよ」

「む、無理に決まってんだろ!」


腹が立ったのでそれを潰した新聞を大王に向けてやると、ぎゃあやめてこっち向けないでと喚いた。素直に感謝しろよこのイカ大王。









「はぁ、やれやれ疲れた」

「疲れたのはこっちだこの腰抜け!アンタはただ騒いで部屋ん中走り回ってただけだろうが!」

「だっ、だってさ、あいつに出会うとそれだけで疲れるんだもの」


大王はいつもの机にいつものようにだらしなく座りながら、こちらを見上げてきた。上目遣いをするな気持ち悪い。

大王を始め、女性職員、それから僕と少しの人数を除いた職員はあの虫が苦手だというからよくわからない。なんで苦手なのかと聞いたら、なんでもあの見た目と動き方が嫌なんだそうだ。まぁ確かにあの長い触角には僕も最初は驚いたけれど。


「にしても、なんであんな虫わいてきたんですかね。前はいなかったでしょう」

「さぁ、そこらへんオレもさっぱりなんだよねー?善ゴメスに聞いたら、あれゴキブリって言うらしいんだけどね。どこにでも現れては人間の生活を引っ掻きまわしているらしいから、別に不思議なことじゃないのかも」


しかも一匹見掛けたら三十匹はいると言われているんだそうだ。恐ろしい、少なくともあと二十九回はあの大騒ぎをしなくちゃいけないと言うことか。
今日はまだ死者を部屋に入れる前だったから良かったものの、もし死者がいる時にあれが出現したら今日の騒ぎなんて笑えてしまうくらいの大騒ぎになりかねない。なにか対策を練らなくては。



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