Novel

□Bitter girls
1ページ/17ページ




暖かな日差しが家中を陽だまりで包み込む、ある日の朝。時折吹く小さな風の悪戯が、肌寒くも感じるけれど。少し早く訪れた春の日差しと閑かな雰囲気に身を委ねたくなる、そんな今日。


「ちょっと、みちる…っ!待ってくれよ!」


いつもなら、触れ合う指先からも溢れる愛の全てを受け止めてくれるのに。必死に絡めたその腕は、いつも通り、みちるの白く華奢な腕ではあるけれど。その愛しい人の腕は、愛を返してくれることはなく…


「触れないで下さる?もう、知らないわ!」


怒りに震えても、尚美しくあるみちる。これが可愛い嫉妬なら、甘い言葉を囁けばすぐ戻って来てくれるのに。今ではその愛も一方通行でしかなくて。


絡めた腕も虚しく、みちるはするりとはるかから逃げて行った。


「みちる!」


バタン…


嵐のようなみちるの態度とは裏腹に、静かにしまった玄関扉が、ひとり残されたはるかの虚しさをより一層思わせた。振り払われてしまったはるかの右腕が、力なく落ちる。


「…はあ……。」


過ぎ去った嵐のあと、呆然と立ち尽くすしかないこの状況にはるかの口から出るものは、落胆のため息。


参ったな、と顔をしかめつつ。生まれ持ったその蜂蜜色の髪を、くしゃっと掻き上げて。憂欝な頭を抱え、リビングへ向かった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ