Novel
□Bitter girls
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暖かな日差しが家中を陽だまりで包み込む、ある日の朝。時折吹く小さな風の悪戯が、肌寒くも感じるけれど。少し早く訪れた春の日差しと閑かな雰囲気に身を委ねたくなる、そんな今日。
「ちょっと、みちる…っ!待ってくれよ!」
いつもなら、触れ合う指先からも溢れる愛の全てを受け止めてくれるのに。必死に絡めたその腕は、いつも通り、みちるの白く華奢な腕ではあるけれど。その愛しい人の腕は、愛を返してくれることはなく…
「触れないで下さる?もう、知らないわ!」
怒りに震えても、尚美しくあるみちる。これが可愛い嫉妬なら、甘い言葉を囁けばすぐ戻って来てくれるのに。今ではその愛も一方通行でしかなくて。
絡めた腕も虚しく、みちるはするりとはるかから逃げて行った。
「みちる!」
バタン…
嵐のようなみちるの態度とは裏腹に、静かにしまった玄関扉が、ひとり残されたはるかの虚しさをより一層思わせた。振り払われてしまったはるかの右腕が、力なく落ちる。
「…はあ……。」
過ぎ去った嵐のあと、呆然と立ち尽くすしかないこの状況にはるかの口から出るものは、落胆のため息。
参ったな、と顔をしかめつつ。生まれ持ったその蜂蜜色の髪を、くしゃっと掻き上げて。憂欝な頭を抱え、リビングへ向かった。