BRAVE STORY

□水溜まりの向こう
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記憶の中でゾフィが小さく笑って訊ねた。
「お友達は?」
うーんと少し考え、苦笑しながらこう答える。
「変なヤツなら、一人」






「美鶴ー!」
噂の変なヤツだ。
そいつはランドセルの留め具が開いているのにも構わず、昨日降った雨の所為でぬかるんだグラウンドに時折足をとられながら笑顔でこちらへ走ってくる。
背を向けて歩き出すと、情けない声が飛んできた。
「あ、ねぇ美鶴!待ってよぉ」
走る速度を上げたのか足音の感覚が狭くなる。
亘はすぐに追いついてきて、息を整えながら隣に並んで歩き出した。
視線を感じて見下ろすと、亘がじっとこちらを見つめていた。
「…なに」
「えへへっ何か、嬉しくって」
嬉しい?と聞き返すと、亘は頷いた。
「こっちに帰ってくるまでは、全然一緒に居られなかったから」
俺は面食らう。
こいつには何かをしてやった覚えなどなかった。
なのに、こいつはいつも嬉しそうに名前を呼んで追いかけてくる。
それが嫌じゃないから、困る。
亘が、あっと声を上げた。
どうやら水溜まりを踏んでしまったらしい。
揺れる水面をみやると、何かが映った気がして目を凝らす。
幻界で対峙したもう一人の自分が、微笑んでいる。
「美鶴?」
亘の声にはっとして振り返る。
心配そうな顔をしている亘に首を振ると、荷物を持っていない左手を取って歩き出した。
「なんでもない。行くぞ」
「えっ?あ…うん!」
手を引かれるままに足を踏み出した亘は、何故か少し嬉しそうで。
握った手に力を込めながら、やっぱり変なヤツ、と呟く。
でも、その笑顔や声が心地よいと感じる自分のほうが変なヤツなのかもしれないな、と考えて亘に気付かれないように小さく笑った。





end.





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