BRAVE STORY

□Awaking Emotion8/5×僕らがいた
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亘がテレビの前で、ううーんと唸る。
そして、
「やっぱり似てるよ!」
と大声を出す。
「何が」
半ばうんざりしながら、美鶴はそれに付き合ってやる。
亘は家に来て、「WaT」とやらのライヴDVDなんてものを延々と流しながら先程のようなことを繰り返している。
あ!と亘が声を上げた。
今度は何だとだるい視線をテレビに向けると、ギターを持ったロックな服装の男が何やらマイクをいじっている。
「おおお…!?」
と、何やら期待を込めた声で亘が呟く。
ギターのイントロが流れて、亘がピョンッと起き上がる。
「やっぱり似てるよ!」
「亘、さっきからそれしか言ってない」
そう言ってやれば、そんなことないもん!なんて言って頬を膨らませている。
「だってさ、似てるんだよ!」
「だから、何が」
一向に話の先が見えなくて苛々し始めた美鶴が少し乱暴な口調でそう促してやれば、唇を尖らせながらこう答えた。
「美鶴に、似てるの」
「誰が」
「ウエンツ君が」
またそいつかと美鶴は溜め息を吐く。
実はここ数日の間、アヤにも叔母にも果ては宮原にまで同じことを言われたのだ。
亘を見ると、既にテレビの前で正座をしている。
美鶴はリモコンを手に取り、テレビの電源を落とす。
「お前こそ」
驚いてこちらを見た亘に、美鶴は一枚のCDを見せた。
ジャケットのモノクロの写真の中ではセミロングヘアの女性が1人、スカートを翻して笑っている。
「まつ、たかこ?誰?」
亘はきょとんとした顔で小首を傾げた。
「似てるぜ」
目をパチクリさせるその顔が可笑しくて思わず噴き出しながら告げる。
「ぼ、僕、男だよ!」
「違うよ。声が」
「声ぇ?」
瞬きを繰り返しながら思考を迷宮入りさせている亘の腕を掴み、引き寄せる。
うわあ、と上擦った声にまた噴き出しそうになりながら、美鶴は愛しさ半分憎しみ半分で亘を抱き締めた。
「亘は、俺に似てるそいつのほうが好きなのか?」
亘に見入られている、自分に似ているというそいつに嫉妬しているのが悔しくて美鶴はそんな質問をする。
違う違うと亘が美鶴の腕の中で首を振った。
そしてこっ恥ずかしい台詞を平然と言ってのける。






「美鶴のほうが格好良いに決まってんじゃん!」
その言葉は太陽のような熱を持っていて、脳天を真っ直ぐに射貫かれた美鶴は目眩がしたという。







end.
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