BRAVE STORY

□祈り×願い
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俺は幻界で死ぬはずだった…



誰もいない屋上、昼休みに騒がしい教室を抜け出してごろんと横たわる。


「俺……生きてるんだな」

俺は空に腕を伸すと何かをしっかりと掴むように手の平をグッと握る。



あの時、俺はあそこで消える運命だったんだ。


幻界での強く、どこまでも真直ぐなお人好しの願いで俺は『今』という時を過ごし、こうして現世に存在している。


「強い祈りってのはとんだ奇跡を起こすもんだな……」

俺は伸していた腕をもう片方の腕と共に頭の後ろで組み敷く。




今でも覚えている。




幻界の


黒天の蒼にとけ
流れてく涙の粒…


最期の訣別の刻


迷いなく俺の心ごと包み込んだ温もりに出会ったんだ……






「あぁっ!美鶴!ここにいたんだぁ〜もう、すごく探したよ」
「亘?」

ガチャンと屋上の扉が開いたと思えば亘の息を切らした声が聞こえた。


「こんなところで何やってるの?」
亘は俺に駆け寄り隣に体操座りをする。


「……別になにも…」

そう、新しく買った真っ白なノートのように、汚れ1つない。




どこまでもお人好しな亘に…






亘は鉄のように冷たく

重たかった俺の心を動かしたんだ。

現界でも幻界でもあんなにたくさんの人を傷つけたのに


俺に向ける亘のその笑顔は変わらない。


幻界で俺の過去を知っても、それを心から受け止めた亘。


亘はたった1つの俺の光なんだ。


この先もずっと傍にいたい。


亘の傍に…





「何?僕の顔になにかついてる?」
隣に座っていた亘が俺の視線に気付いたようで頬を赤らめて両手を顔にあてる。


「……なにも」
「もぉう!今日の美鶴なんか変だよ!?」


いつもと態度が違う俺に困惑の表情を浮かべる亘を見て、俺は静かに笑った。


「む〜、美鶴なんて知らない」

教室に戻ると思ったが、亘はそのまま俺の隣にごろんと横たわる。



亘、俺はお前が好きだよ


亘はこんな俺を慕ってくれる。

今度こそ
二度と離れないよう、しっかりと互いの想いを築いていきたい。



亘にだけなら心の奥底に眠る「本当」の俺を出すことができる。


もう…
なにも怖くない。



「過去」じゃなくて、こうして亘といられる「今」という時を過ごしていきたい。



「ここ、あったかいね」
「あぁ…」
隣に寝転んでいる亘があくびをしながら伸びをする。


「眠くなってきちゃったよ…」
「寝ろよ、俺が起こしてやるから」


俺は上体を起こしてうとうとしている亘を見下ろす。

「う…ん、あり……がと、」

亘は目を綴じて寝息をたてはじめた。








「ん、…み…つる…のそばに…っと」


綴じられた目をじっと見つめていると突然亘に呼ばれ、俺はびくんと肩を震わせた。



「…亘」






俺は仰向けで寝ている亘に覆い被さるように顔を寄せ、唇を重ねる。


「……ぅんっ」
亘は少し身じろいだが起きることもなくそのまま深い眠りへおちていった。


「ありがとう、亘」



過去の忌まわしい記憶は消えることはない。


けど2人なら

そんな深い闇を解き放って、強く。果てしなく広がる未来へ



歩いていける。



そう、俺たちはここからはじまっていく………





fin.
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