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□運命の人
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従兄弟の玲ちゃんに呼ばれて家を出ていた私は、子供たちも寝静まった深夜0時過ぎに帰宅した。
「ただいま…」
子供たちは2階で寝ているが、明日も学校なので、なるべく音を立てず静かに歩く。
居間へ続くノブに手を掛けようとしたところで、ふと磨りガラスの向こうに人影が見えて立ち止まる。
…亮太さんが帰って来たのかしら。
もしもそうなら嬉しいが、過度な期待は禁物だ。
新聞記者の夫、弓成亮太は不倫相手の三木昭子に嵌められ、沖縄返還に関する秘匿とされる最重要書類を公開したとして裁判中。
妻である私や子供たちも毎日週刊誌の記者に追いかけ回されている。
初めのうちは、許せなかった。
妻子ある身の立派な社会人が一時の快楽に負け、その相手に嵌められたのだから。
私は離婚を考えたが、彼を責めることはしなかった。
深く愛しているからこそ、責めて突き放すのではなく寄り添い、支えて、立ち直る彼が見たかったから。
新聞記者として、輝く彼をもう一度見たかったから。
心労を患って半年前から実家に帰っていた彼が自らの意思で帰って来たのなら、それは話をしたいと思ったからだろう。
私はそう思って扉を開けた。
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