彼岸花

□息吐く。
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「……てめぇはどうして計画的に書類を片付けられねぇんだ!」

「そう吠えるなよ、跡部」

「こんな量見たら誰だって言いたくもなるに決まってんだろうが!!」

「私は!この書類を!片付けたくないのだよ!」

「黙って手を動かせ!」


跡部と教官のやり取りを聞いて何度となくついたため息をつく。
目の前には山のように積み上がった書類。

文句を言いながらも書類を片付けていく跡部と俺。
そして背もたれに体を預けて空を仰ぐ教官。


「そういえば千歳はどうした?」

「探したけど見つかりませんでした……逃げたんでしょうね」

「では私が探して来よう、そうしよう!」

「てめぇが行ったらそのまま逃げるだろうが!俺が行く、大石!」

「……わかった、見張っておくから」


ぶつぶつと文句を言いながら出ていく跡部。
残ったのは教官と俺の二人だけ。


「……大丈夫ですか?」

「ん?何がだ?」


気の抜けたような返事を返してくる教官。


「いや、これだけ溜め込まれていたから……忙しかったのかと思って」

「んー……」


教官はやっと起き上がってペンをとる。
うんざりしているような表情だった。


「いやね、上の奴等は私をあまり好いていないからな」


気が付けば書類は溜まっていくのだよ、と言う教官。

何十年とここにいる教官は腕もたつ。
離したくない人材ではあるが、目の上のたんこぶのような存在なのだろう。


「教官は――」

「離さんね跡部!」

「うるせぇ!てめぇだけ逃げるなんて許さねぇぞ!」


ドタンバタンと騒音をたてながら入ってくる跡部と千歳。


「千歳見つかったんだな」

「まあな」


無理矢理千歳を席に着かせ、書類を押し付ける。
はぁ、とため息をついて、お茶でもいれようと立ち上がる。


「あ、れ……教官?」

「あんの野郎逃げやがった!!」


教官はこの騒ぎに乗じて逃げ出したようだ。

跡部と千歳が探しに行くのを眺めて、またため息をつく。
俺のため息は、しばらく止まりそうにもない。


息吐く。





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