彼岸花
□奪う。
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バンッ、バンッ、バンッ。
火薬の匂いが鼻につく。
銃口からは煙がのぼり、人を型どった訓練用の板には穴が開いている。
最初は全く的に当たらなかったが、最近ではかなりの頻度で人間の急所――頭や心臓――を撃ち抜けるようになってきた。
(人を殺す方法に長けても、なぁ)
本当ならば軍人なんて仕事は、ない方がいいに決まっている。
それでも、俺たちは戦わなければいけないのだ。
「大石」
「……教官」
銃に新たな弾丸を装填していると、後ろには教官が立っていた。
その視線は鋭い。
「随分と上達したのだな」
「あ、ありがとう、ございます……」
ふっ、と笑みを浮かべ、教官は俺の隣に立つ。
「私の班では、大石が一番コントロールがいい」
練習したんだろう?と聞いてくる教官に曖昧な返事を返す。
人を殺めるための訓練など、正直あまりしたくない。
「……大石」
「はい?」
「忘れるなよ」
教官の言葉にどきりとした。
銃を握る俺の手に、教官の手が重なる。
「今まで奪った命を。これから奪う命を。忘れるな」
俺の本音を見透かしたような、教官の言葉。
「お前が拳銃を握った数だけ、人の可能性を奪う。だが、そのことから……目を背けてはいけない」
初めて銃を握り、銃口を人に向けたときから。
その覚悟は決めていたはずなのに。
「……はい」
「それでいい」
そっと教官の手が離れていく。
俺たちは、迷ってはいけない。
奪う。