彼岸花

□相反する。
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ぼんやりと空を見上げた。
少し前までの凍てつくような寒さは和らぎ、暖かい気温に眠気が誘われてくる。

少し目線を下に移すと、敷地の端では木蓮の花が静かに咲いている。


この景色を見るのは、一体何回目なのだろうか。
もう見られなければいいのに、と何回思ったことだろうか。


待てども待てども、逝くことは出来ない。



ふぅと一つ、ため息を溢し、いっそ寝てしまおうとその場に腰かけて目を閉じる。


意識が微睡む。
このまま浮上せずに沈んで逝けたら。


そんな願いは誰かの足音で掻き消された。


「……教官?」

「……」


沈みかけていた意識は浮かんできてしまったが、目は開けたくなくてそのまま寝たふりをする。


「教官、教官。こんなところで寝ると風邪引きますよ」

「ん……」


肩を軽く揺さぶられ、仕方なく目を開ける。


「大石、か」


困ったような微笑を浮かべる大石。


「こんなところで何をされてるんですか?」

「んー……木蓮を見ていたら眠くなってね」


枝から空に向かい、花をつける白い花。
散るときは桜以上に一瞬で花弁を落とす。


「大石、知っているか?木蓮は地球最古の花木らしい」

「そうなんですか?」

「私も、昔から良く眺めているよ」


木蓮のように、潔く散って逝けたらと祈りながら。


「……教官、知っていますか?」

「何をだ?」

「木蓮の花言葉は持続性、らしいですよ」

「……」

「あっ!」


声を上げた大石の視線の先を見ると、木蓮の花弁がバラバラと音を立てて地面へと降り注いでいた。


潔い散り様と、持続性。
何回散ろうが、また花は咲く。


結局は私も無い物ねだりだったのだ、と思うと何とも笑える気持ちになった。



相反する





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