彼岸花

□馳せる。
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梅雨が明け、夏がやってきた。
夜でもその暑さは余り変わらず、蒸し蒸しとした空気が肌にまとわりつく。


「聞いたか、今日近くの河原で花火が打ち上がるらしい」

「へぇ、珍しかね、そがんことするなんて」

「え、今から上がるんですか?」

「あぁ。ここからでも見えるみたいだし、せっかくだからみんなで見ないか?」


たまには、と思い、少しばかりの休息を提案する。
三人とも了承し、仕事の手を止めた。


「花火見るんだろ?電気消さねぇか?」

「たまにはいいことを言うな、跡部」

「どういう意味だそれは!」


跡部の反応に笑み(嫌味)を返しながら電気を消す。
暗くなった室内は月明かりで仄かに照らされた。


「あ、始まりましたよ!」

「フン、結構本格的だな」

「でかかねー!」


花火は一瞬で花咲き、消えて行く。
儚くて、美しい光。


「綺麗だな」

「教官、もっとこっちに来なっせ」

「俺たちよりか小さいんだから、後ろからじゃ見えねぇだろうが」


千歳と跡部に呼ばれ、窓際まで行く。
弾けるときの音が響いた。


「綺麗ですね」

「……あぁ」


大石の微笑みに、こちらまで笑みを溢してしまう。

ドォン、と一鳴りし、最後の花火は夜に消えていった。


「なかなか綺麗だったな」

「今度、手持ちの花火ばせんね?」

「あ、いいな!教官、やりましょうよ」


跡部に千歳、そして大石。
三人とも可愛い私の教え子だ。


「全く……仕方がないな、お前ら」


どれだけ一緒にいることが出来るのだろうか。

そんな不安は胸に抑え込んで微笑んだ。


馳せる。




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