彼岸花

□聴く。
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転がる屍。
その中に立っているのはほんの数人だけだった。


「みんな、怪我は無いか?」

「あぁ、大丈夫だ」

「教官もお怪我ありませんか?」

「心配してくれるのか?大丈夫だよ」


ふう、と一息吐く。
手に持った銃はずしりと重い。


「さて、帰るか――」

「――っ教官!」


大石の掛け声に、はっとして振り返る。


「死ねぇぇえええ!!」

「――っく」


体を捻り、手に持った銃で相手の腹部を殴る。
しかし、そのままバランスを崩し倒れ込んでしまった。

そこで相手が待ってくれる筈もなく、刀を振り上げている様が目に入る。

パァン。

銃声が響いた。
弾は敵の胸の辺りを貫き、相手は倒れ込む。


「――……」


誰かの名前を絞り出した後、ガクリと力を亡くし、呼吸を止めた。

呼んだ名は家族か、はたまた恋人か。
誰にせよ、きっと大切な人だったのだろう。

銃声の方を見ると、大石の手にある銃の口から煙が上がっていた。


「――……」

「大石」


さっきの声が、聞こえていなければ、と少し大きな声で名前を呼ぶ。


「助かったよ、ありがとう」

「……いえ、教官に怪我がないなら何よりです」


少し影の落ちた微笑みを浮かべる大石。

人の命を奪っている。
その意識は、消えてしまってはいけない。

しかし、聴かなくても良い"ノイズ"は聴かせないように。

帰るぞ、と短く声をかけ、その場を後にした。


聴く。




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