彼岸花

□近付く。
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「教官、久しぶりに手合わせお願いできませんか」

「あぁ、構わないよ」


休憩時間。
教官に手合わせを申し込んだ。

カチャリ、と音を立てて銃の安全装置を外す。
弾はペイント弾。
昔教官に挑んだときは全身ピンク色に染まったことを思い出す。


「準備はいいか?」

「……はい!」

「では……行くぞ!」


教官の声と共に銃声が響く。
同時に駆け出し、それを避けた。

連続して響く銃声。
俺を追う形でペイントが付いて行く。

教官が弾を使い切り、補填する瞬間。
教官目掛けて銃を構える。

パァン!
それは頭ギリギリのところで避けられる。

カシャン、と弾の装填が終わった音がした。

教官がニッと不敵に笑うのが見える。
慌てて壁に隠れようとしたのと同時に銃声が響いた。

(少しかすったな)


ふくらはぎのところに少しペイントが付いている。
これが実弾であれば、と考え、短くため息をついた。


「隠れているばかりでは、どうにもならないぞー?」

「……わかっていますよ」

教官はとにかく眼――動体視力と反射神経が良い。
壁から出ようものなら、その瞬間に全身ピンク色に染まることだろう。


(それなら――)


それを逆に、利用する。


「これでは訓練にならんだろう。……!」


壁から飛び出したものに銃口が向けられる。
一発、響く銃声。
はらりと地面に落ちるのは軍服の上着だ。


「――!」


それに気を取られている教官に向けて3発、銃弾を放つ。
思惑に気付いた教官は弾道を見極め、少しの動きによって外される。

その動きから、思い切り前に出て、あっという間に間合いを詰められた。


「あ――」


ゴッ、とこめかみに銃口が当てられる。
実戦ならば、と考えるまでもない。


「……流石です」

「大石、お前もな」


ふ、と笑う教官の脇腹には、俺の銃が向けられている。


「……まさか当てられるとは、な」

「え?」


教官の軍服を見ると、肩のところにペイントが少しだけ付いていた。


「成長したな」

「……ありがとう、ございます」


笑顔の教官に、微笑みを返す。

少しでも、近付けたのかも知れない。
そう思うと嬉しくなった。



近付く。





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