dream

□「泪で明日が見えません」
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「行かれるのですか」


寝ている私の額を一撫でし、部屋を出ていかれようとする秀一郎様。
声をかけるとびくりと反応し、苦笑して振り返る。


「起きていたのかい?」

「いえ、秀一郎様が撫でて下さったので」

「あぁ、起こしてしまったんだね。すまない」

「いいえ、嬉しゅうございました」


私がそういうと、秀一郎様は照れ臭そうに笑う。


「……やはり、行ってしまわれるのですね」

「……」

「秀一郎様」


秀一郎様は少しばつが悪そうに私から目を逸らす。
けれども、すぐ私の瞳を真っ直ぐに見据えた。


「あぁ」


一言。
貴方様のその一言で、私の胸がどれほど締め付けられることでしょう。


「……そうですか」


だけど、困らせる我が儘な妻にはなりたくない。
従順に、だけど信念は持って。

全てを包み込み、全てを受け入れる。


「一つだけ」

「え?」

「一つだけ、約束をして下さい」


私は、秀一郎様の妻なのだ。


「私を独り、置いて逝かれないで下さい」


秀一郎様はやんわりと微笑まれる。

まるで、背後に見える月のように。


「あぁ、約束するよ」


最後に一つ、口付けを交わして秀一郎様は部屋を後にした。



(貴方様がいなくなったら)


「私には明日など見えないのです」



END

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