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□左誕祭
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(!学パロ)
2月7日は大切な日だ。
回りの奴等が知らなくても僕だけが知ってればいい。その優越感に浸っていよう、とそう思っていた。
…のに
「今日は私の誕生日だ!」
あろうことか(まあ性格からして言うであろう事は想像すべきだったが)朝のホームルームで担任は言って述べた。
皆、口々に『おめでとう』だの『何歳』だの発している。
…腹が立つ……
僕は最初から知っていたのに、今『おめでとうございます』と言ってしまえば、今の今まで誕生日を知らなかった他の奴等と変わらなくなってしまう。
(それは…いやだ)
せっかく芭蕉さんから聞き出して、言われる前から知っていたのに、クラスの奴等のような薄い想いと同じに思われるなんて、納得がいかない。
結局僕は1度も厩戸先生にお祝いを伝えずに放課後を迎えた。
それでもやっぱり伝えたくて、他とは違う想いを少しでも伝えたくて、掃除の終った教室に1人残っていた。
窓から見える運動場にはボールを奪いあう馬鹿らしい球技を楽しそうに、それでもって真剣に行なう生徒が見えた。
(僕は、一体何をしているんだろう…)
そんな生徒達を見て一気に気持ちは冷めた。大体先生が来るなんて実証もなく、呼び出したわけでもないのに先生を待つなんて馬鹿らしいにもほどがある。今の僕は運動場でボールを追いながら青春を謳歌しているようなあの生徒たちより馬鹿らしいのかもしれない。
先に帰って貰った小野や鬼男に申し訳ない。
「はぁ…」
1人だけの教室に大きいため息が響く。せっかくなので持って来ていたプレゼント…と言っても何をあげたらいいのか分からず、急いで買った包装さえしていないボールペンを教卓の上にでも置いて帰ろうと教卓前まで行って時、
−ガララ−
少し遠慮がちに教室の扉が開いた。
驚き顔を向けたその先にいたのは
「あれ?河合?なんでまだ教室に」
僕が待望んでいた人物だった。
僕を見て扉をちゃんと開けて中に入って来た先生に焦りながら教卓におこうとしたペンをポケットにしまった。
「忘れ物をしたんです、先生は何故ここに?」
「え、あぁ…もしかしたらシャイな生徒が私に直接は渡せなかった誕生日プレゼントを残していってるかな〜と思ってな!」
図星な自分がいて一気に恥かしくなる。
チャンスとしては今以上はないのだろうけど、そう言われてしまっては渡しにくい。
(プレゼントを渡すのはあきらめた方がいいだろう)
ボールペンは自分で使う事も出来る。問題はない。
「そんな風に先生を尊敬している生徒がいるとは思いませんけど……僕はこれで帰りますね」
気恥ずかしい分なるべく早く帰りたかった、だけど、
「河合、待って」
「…なんですか」
不運にも呼び止められた。
ひょいとジャンプして教卓の上に座った先生は真意の見えない瞳を僕に向けながら口を開いた。
「私、今日河合におめでとうって言って貰ってないんだけど?」
「え、」
「朝、誕生日だって言ったのに言ってくれなかったじゃないかお前ー…拗ねるぞ」
…あんなに皆が口々に言ってうるさかった中で、僕が言ってなかったのが分かっていたと言うのだろうか?
「気のせいじゃないですか…」
「いや、言ってなかったな」
「………」
「なぁ河合、祝ってくれないか?」
「………………おめでとうございます」
なるべく平常心を保ちながら小さく絞り出した。
「プレゼントとかない?」
「なんで僕がそんな物貴方に…」
「今日誰にも貰えてないんだ…お前ら本当に担任に優しくないな…」
教卓の上にこじんまりと体育座りしてメソメソとうざったい泣き真似をしだす先生。…もしかしたら本当に泣いてるのかもしれない。
そんな姿にポケットの中ずっと握り締めていたペンを投げ付ける。
「痛ぁ!何するでおまっ…」
本当に泣いていたようで膝と顔をビチャビチャに濡していた。
「……それで良かったらあげますよ…」
「!……河合…!!」
「出が悪くなった奴ですけど」
「お前…使い古しってお前…………」
「……それじゃあ失礼します」
先生の顔も見ずに少し早足で教室を去る。渡せた満足感と妙な緊張がとけたことで気分はすっかり楽になって、運動場でまだボールを追っている生徒がさっきより輝いて見えた。
「河合ーありがとー」と窓を開けて、こちらに叫ぶ声に微笑して家路を歩く。
「素直じゃないなぁ〜」
1人だけになった教室でニヤけてしまう。
私があそこまで言わなきゃ祝っても、プレゼントくれもしないなんて可愛いものだ…。
貰ったボールペンをクルクルと回す。
ぶっきらぼうな生徒を思い出してまた笑顔になってしまう。
(なぁ、河合このペン出が悪いどころか……未使用の新品なんだよな)
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長い…
曽良君も太子もキャラが違いますねorz
書いてて想像以上に太曽に萌えた^^
090216