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□右祭り2
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僕のようなものが五位に立つのが癪なのだろう、厭な言葉をかけられたりが少ないわけじゃない。
それに、太子はあんなんだけど、この国の頂点に立つお人だし、僕の立ち位置は世間一般からしてもよろしくない。
分かって、いる。いけないのは僕なのだと。だからと言って、太子の気持ちを…何よりも僕自身の太子を想う気持ちを無下には出来ない。



「妹子!」
「ぎゃっ!」


仕事の資料をもらい、朝廷の廊下を歩いていたところ後ろから突然抱き締められた。ボーっとしていたこともあって、突然のそれに僕は手元にもっていた資料を廊下にぶちまけた。


「あーっも、太子!」


落とす原因を作った張本人出あるのに太子は未だ僕に抱きつきながら吹けてもいない口笛を吹いて、自分は関係ないという態度をとっている。
もとから拾ってくれることなんか期待してはなかったし、すぐさま太子の包容を振り払い散らばった資料を拾い集める。
僕が全て拾い終わると、待ってましたと言うように太子がまた抱きついてきた。今度は身構えしていたし、前からだったので資料を落とすことはなかった。


「…で、何ですか?」
「妹子に最近合ってないなぁーと思ってたら妹子が見えたからな!」
「誰かが仕事しない分忙しいからじゃないですかね?
あぁ、僕忙しいのでこれで」


少し皮肉を残し、さっきのように振りほどいて行こうとしたのに、太子が思った以上に僕をきつく抱き締めるものだから、身動きが出来なかった。






「太子離して下さ、」
「妹子、お前何かあるんだろう」
「……」
「忙しいだけじゃなく、私と逢わないようにしてるだろう?」


太子の包容が少し緩められ、やけに真剣な面持ちの太子と目が合った。
その、僕だけを捕える真っ直ぐな目から視線を逸らすことが出来なかった。


「そんなこと…」
「有るだろ

…お前な、私はスーパーセクシー摂政なんだぞ!お前の隠し事ぐらいお見通しだ」


『摂政』
太子の言った言葉が胸に突き刺さる。
そうだ、太子は摂政でこの国の頂点に立つお人。僕なんかがそばにいることなんて許されやしない。





「……遠いんです」
「…?」
「太子、僕らはこんなに近くにいるのに、こんなにも好きなのに、遠いんですよ」


太子と僕じゃ、釣り合わない。













「…………妹子お前頭大丈夫か?」
「いや、アンタには言われたくない」
「ムキィー!芋のくせに!………………………あのな、妹子よく聞いて」


小さい子をあやすように優しく言葉をかける太子。
その声にひどく安堵する。


「私は妹子が好きだ」
「…………………………知ってます」


知ってる。僕だって太子が好きだ。


「分かってない」


大きなため息をついて、太子は頭をかきながら少し考えて口を開く。


「なんて、言うか…なんだ、その私は、妹子が好きなんだ!」
「……?」
「じゃ、なくて、…私はな、冠位もなにも関係ない、小野妹子っていう奴が好きなんだ!
妹子だって、摂政だとか関係なく、私って言う人間が好きなんだろ?」


太子の言葉に僕は唖然とするしかなかった。
太子なりの励ましだったのだろうその言葉は、とてつもなく簡単なことを訴えていて、そんな簡単なことが僕のもやもやを全て消し飛ばしてくれた。






「何ですかそれ」
「あ、笑うな!」
「まぁ、よくわからないですけど、僕は太子を好きでいればいいんですよね?」
「当たり前だ、私の事を好きで不幸になることなんか、ない」


ニィッと笑う太子に、僕もつられて笑う。


深く考え過ぎることなんていらない。
今は、何を言われようが、僕はこの人を好きでいよう。








全てを杞憂へと
(導くあなたがまた好きで)




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身分差に悩む妹子もええぇ!
太子のイカメンKYこそ最高なところw













090518
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