クレヨンの扉
□11話.九月は競い合う花々の祭典!?
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〜10より〜
ふわん、ふわんと漂ってきた匂い。
それは金木犀の香りだった。
街の顔役、ガウェイン氏のブースだ。
金木犀で囲った真ん中に、凝った造りの青銅ベンチがおいてあり、
その後ろに一本の銀木犀が花を湛えていた。
ベンチに一人の紳士が腰掛けている。
年の頃なら、老年に差し掛かったという処だろう。
がっしりとした身体に白いものの交じり始めた赤い髪。
「やあ、ガウェイン。盛況ですね」
紳士の顔に穏やかな笑みが浮かぶ。
改めて手中の渋い樫の木のステッキを握り直し、彼は成果を見上げた。
青い美しい空を、金木犀が縁取っている。
いつまでもここに居たい。
そう思わせる程、美しい光景だった。
「楽しんでいらっしゃいますか?
ヤン先生。そしてユキさん」
あたしは大きく頷いた。金木犀も大好きだったからだ。
「はい!この匂いが大好きなんです。
お花をハンカチに少し貰ってもいいですか?
学校の、行き帰りの道にもよく咲いていて、そこでもあたし――――」