捧げモノ
□Web拍手SS集
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連載夢主×ボリス
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「触らせろ」
向かい合う精神年齢熟女は開口一番、こう言った。
ここはクローバー塔にあてがわれた彼女の部屋。
セクハラ発言を受けているのは、元・遊園地の猫、ボリス=エレイだ。
「やーっと引きこもりのアンタの部屋を見つけた、ってのに、よりにもよって第一声がソレ?」
なるほど。
いつものファーはピンクではなく、黒だし。
着てるモノはスーツっぽいし。
全員集合イベントをさっそくエスケープしてきやがったか!
「誰もカレもここに集まってくるから、退屈をガマンして避難してんだよ、あたしゃ。
放っといてくれるか、隅々触らせるか。
どっちかにしろ」
ソファに寝そべっている彼女の背中に、ポスン、と猫が覆いかぶさった。
「げ。ナニをする!?
あたしは触るのが楽しいのであって、断じて触らせるのは「しッ!――――――お城の宰相さんに見つかるよ?」
びくり。
「俺がどうして簡単にアンタの部屋を見つけられたんだと思う?」
耳元で囁く猫に、襟足をザラリと舐められ、オマケにちゅー!と吸い付かれた。
「あっ…」
「――――いい声」
伸ばそうとした手を掴まれる。
「白ウサギさんが甘いスイーツ片手にアンタを探していたからさ。
まあ、トカゲさんがこの先の通路で張ってたらしくて邪魔してくれたから、すんなりここに入れたんだけどね」
「グレイが!?」
思わず身体を起こそうとして、体重をかけるピンクの猫に邪魔された。
「助けに行くつもり?妬けるね…。
でも、丸腰であの人の前に出れないだろ?アンタは、さ」
握られた手を振りほどき、過去にペーターに撃ち抜かれた腕を彼女は無意識にさすっていた。
「ここに居なよ。大丈夫、俺がアンタを守ってやるからさ。
―――――それに」
ボリスは自分のスーツの胸元に再び捕らえた彼女の手を突っ込んだ。
「今なら、猫、触り放題♪…ってのは、どう?」
ゴクリ。
生肌だ。
アンダー無しの暖かい肌の感触が、新たな余所者の脳を痺れさせた。
「………どこでも?」
「どうぞ。
何なら食べてみる?」
ギュッと抱きしめられて、黒いファーがパサリ、と床に落ちる。
「俺をアンタの猫にしてよ」
誘惑が脳神経を焼き付くしたが、そこはそれ。
いくらなんでも、世話役が外で自分の為に戦ってくれているのに、
当の本人が情事に耽るワケにはいくまい。
「くそう!
死ぬホド惜しいが、権利を放棄するッ!!」
ボリスを気力で振り払い、廊下に飛び出すと、噂のスイーツを手にしたグレイにぶつかり、彼の懐に飛び込んでしまった。
「?――――どうした?そんなに慌てて。
白ウサギなら撃退したぞ?」
あたしは彼の身体をぺんぺんはたいて、無事を確認した。
「良かった〜。どこもケガして無いよ〜」
安心してすがりつくと、グレイは笑みを深めて優しく抱きしめてきた。
「そんなヘマはしないさ。
……ところで、どうしてそれを知ったんだ?」
ふと、視線がうなじに落ちた。
「………その、赤い跡はどうした?」
グレイの不機嫌さがMAXに跳ね上がる。
な、何か出てるよ!
にじみ出してるよ、トカゲさんッ!?
有無をいわさず、彼はあたしを置いて部屋に飛び込んだ。
カキィン!ドス、ぱきゅーん!ぱん、ぱん!カツ!どん、どん!!
………えーと、確か会合中は争っちゃあ、ダメなんだよね…なるべくは。
ドアの隙間から、男二人の凄まじい攻防を覗き見ながら、あたしはため息を吐いたのだった。
おわり。