クレヨンの扉
□8話.七月は竜宮、時の彼方へ
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竜宮の一室。謁見の間らしい。
眩い玉石を散り填めた玉座に、厳しい目をした乙姫が居た。
項垂れる震。
空間に点在する、幾つかの出口の映像を飽かず見詰める先生。
「先生…」
こちらからの声は届かない様だ。
これはタダの映像に過ぎない。
「それが子細か。―――――では、下がるが良い」
乙姫の言い種に、ちらりと先生が一瞥を寄越した。
震は弾ける様に顔を上げる。
「ユキ達が《時渡鏡》に落ちた責は俺にあります。
何か、俺にも‥」
「其方に出来る事など、何一つ無いわ、うつけめ」
く、と唇を噛む息子に最早構いもせず、
ヤン先生に向かう竜宮の長。
「ヤン、どうじゃ?
迷子は無事、管理人と逢うたであろうか」
「難しいですね。
運が向けば、という処でしょうか。
それより問題は」
踵を返した少年の足下に、先生は近くの碁石を掴み、指弾の要領で足を止めた。
「つッ!?――――何をする、魔法医師」
声を荒げた竜宮の公子に、一切の感情を消した青年が静かに言った。