図書室
□寒すぎて
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「あぁ。まだかしら、わたくしのアリス・・・」
いつもは硬く閉ざされている窓を全開にし、外を眺める。
今は冬。当然暖房をつけているのだが、ヒューヒュー吹く風に運ばれてやってきた雪のせいか、室内の温度は著しく低下していた。
ふと鎌を見てみれば、金属だからか余計に背筋が寒くなる。
わたくしは肩にふんわりとかけていたショールを握り締め、寒さに耐えた。
きっと紅茶も冷めてしまったわね。アリスが来たらビルにでも淹れなおさせましょう。
わたくしはそう心に決め、また窓の外を眺めた。
「陛下・・・」
後ろからかけられた声に振り返る。
「何かしら、ビル」
「その、ですね。アリスはまだでしょうから・・・少し窓を閉めていただきたくて・・・」
そんなのわたくしの勝手じゃないの。と声を荒らげ話すが、目の前の蜥蜴はいつもよりもおっとりとした話方をする。
具合でも悪いのだろうか。柄にも無く心配している自分に笑みひとつ。
アリスが来たら寒いものね、部屋を温めておかなければ。
わたくしはもう一度外を眺めてから、静かに窓を閉めた。もちろんビルの為なんかではない。愛しい愛しいアリスのためだ。
あの白く美しい肌が乾燥してしまうなんて、わたくしには耐えられない。ハンドクリームでも用意しておこうかしら。
「陛下・・・」
わたくしがアリスの事を考えていて、とても幸せな気分に浸っているのに。この蜥蜴は先程と同じように弱弱しい声でわたくしに話し掛ける。
一体どうしたのだろうか。
「なにかしら、ビル。さっきから様子が変よ。フラフラして・・・」
「えぇ。寒いものですから。寝なくてはならないのですよ・・・土の中で」
「は・・・?今なんとおっしゃって?」
聞き捨てなら無い言葉が耳に残る。土。土と言ったのかしら、この蜥蜴は。
わたくしは冷たくなってしまったであろうカップに伸ばしかけた手をぴたりと止めた。
「貴方、今なんて?もう一度言ってごらんなさいな」
「ですから、眠らなければならないと」
「その後よ!」
「?・・・土の中で?」
こてんと首をかしげてみせるが、ちっとも可愛くなんてない。アリスなら抱きしめたい衝動に駆られるだろうが、相手は蜥蜴。
逆にぬらぬらした髪が横に流れる様子が、わたくしには気持ち悪くてしかたがない。
あぁ、本当に早くアリスはいらっしゃらないかしら。
「貴方、そんな癖があったの?夜は土で眠るの?」
「冬だけですよ。そろそろ、冬眠の時期ですので」
蜥蜴のビルは、まだフラフラした足取りでドアの方へ進む。
「ど、何処へ行くのよ!?もうすぐアリスがいらっしゃるのよ!!」
何故か、自分でも分からないうちにビルを引き止める。鎌はそっちのけで。
首を狩れば早いのに。
あぁ。こいつは首が生えるんだっけ。全く。
「どこって・・・。冬眠しに行くのですが」
「そんなこと、許さないわ!!わたくしを誰だと思っているの!?」
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