短編小説

□君が追いかけた夢×じょりパ!相互記念A 『keep in touch』
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 麻帆良学園。かつては魔法に関わる者達が陰に隠れて活動をしている、魔法協会の総本部であったが、今は違う。魔法世界のことがあらわになった今では、火星を人の住める緑溢れる環境に変えるという「Blue Mars計画」の重要地点として成り立っている。

 そんな麻帆良を一望できる高台の公園のベンチに、男は座っていた。ベンチに立て掛けた真っ黒な刀に付いた淡い桃色の飾りが風に遊ばれ、揺れている。男の手にある煙草から、白煙が風に乗って軌跡を描いては消えていく。

「変わったもんだな……」
 
 男は小さく呟いた。それは街の事か、自分の事か、あるいは両方か。言葉は、煙と一緒に口から静かに飛び出していく。自分の青春が全て詰まっている街へ向かっていくものの、儚く消えてしまう。

 目を瞑れば、あの騒がしくも懐かしい日々の光景がすぐに浮かんでくる。壁にぶつかりながら、それでも愚直に前へと、ただひたすらに前へと全力で進んでいた、あの毎日。振り返れば、それは昨日の様で。けれども、時間は確実に進んでいて。決して戻ることは無い。取り戻したくても不可能なあの日々。今はただ全てが懐かしい。

「案外、そうでもないよ」

 突然に頭上から降りかかった、聞き覚えのある爽やかな声。この街で出会った親友と呼べる存在、竜崎隼人。男にとって最初はいけ好かなかったヤツだがいつの間にか、無二の親友となっていた。最初はただ向こうから一方的に距離を詰められただけかも知れない。だが、男にとってその距離は、嫌なものではなくなっていた。

「……かも知れないな。現に、全く変わらない奴が俺の目の前にいる」

 火が点いたままの煙草を、金属製の携帯灰皿に押し込んで男は顔を上げた。久々に会った友人は、あの日と何一つ変わらない姿で立っていた。

「褒め言葉……で良いんだよね?」

 彼は若干の呆れ顔を浮かべながら、男の隣に座った。

「あぁ。いつまでも若々しくって羨ましい限りだぜ」

「君は変わったよね。煙草なんか吸ってさ」

「何十年経ってると思ってるんだ? 人は常に変化とともにあるんだぜ」

「まぁたそれっぽい事言って……このやり取りも懐かしいね」

 男の煙に巻くような適当な発言に指摘する生真面目な隼人。何度も何度も繰り返した、懐かしいやり取り。思わず、二人の顔に笑みが浮かんだ。

「でもさ、この体も良い事ばっかりじゃないんだよね」

 竜崎隼人はただの人間ではない。不死でこそないものの、永遠を生きる存在――ヴァン。学生生活を終えてからもう何十年も経つというのに、隼人の姿がほとんど変わっていない理由がこれだ。

「自分だけが若いまんま。友達や恋人が歳を取って……死ぬところを見なくちゃいけないんだ……辛いよ」

 永遠の命を欲する人間は古今東西、数多く存在した。その者達から見れば贅沢な悩みかもしれないが現実に、不老の体を持つ隼人は苦しんでいる。

「……そうだな。俺もいずれは死んじまう」

 数々の戦いを切り抜けた猛者。様々な敵を打ち倒してきた彼でも、寿命にだけは勝つ事ができない。

「けどよ、お前が俺のことを覚え続けてる限り……俺はお前の心の中で生き続ける……だろ?」

 男は隼人の胸をとん、と叩いた。呆気に取られた顔をした隼人だが、一瞬で明るい表情へと変わる。

「すっかり変わったものと思ったけど……違ったね。君はやっぱり、あの時のままの……葛西悠一だ!」



 ベンチから立ち上がり、かつての学び舎を目指して二人は歩き出す。無邪気に笑う男の姿は、あの時と比べてもなんら変わらない、少年のようであった。





――fin.
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