『ねえ、ジタン』

「ん、なんだよ?」


暖かい日の昼下がり。

木の下に寝っ転がってうとうとしていたオレに、隣に座っていた少女から声がかかる。


『あたし綺麗事って好きじゃないんだよね』

「…え?」

いきなり変なことを言われたからよく理解できなかった。


オレは彼女に向き直って、そのいつも無気力そうな目を凝視する。

と、彼女も負けじと見つめ返してきた。


『ジタンは綺麗事ばっかりよね』

「は?だったら、オレが嫌いってか?」

オレとこいつは一応恋人ということになっているはずなんだけど。

こいつはいつも、オレの事を馬鹿だとか筋肉だとか言ってきやがる。


 本当に、オレのこと好きなのか疑うぜ。


『そうじゃなくて、』

「…そうじゃなくて、なんだよ」

そう問うと彼女の瞳が揺れた。

散々言われたオレは段々イライラしていく。


そして、

『そんなジタンと居たら、綺麗事も悪くないなって思って。たとえば』

「…たとえば?」

言いにくそうに、目を伏せて言う。


『貴方と出会って好きになったのは 何億分の一の、奇跡かもしれない、とか』


一瞬、時が止まった気がした。

そしてその意味を理解したとき、オレの中からイラつきはなくなっていて。

代わりに何か、例えばこの日差しのような暖かさじゃなくて、他の違う温かさが溢れてきた。


「お前さ、普段からそんだけ素直なら可愛いのにな」

恥ずかしさのあまりか、完全に顔を背けてしまった彼女を抱き寄せる。


『…バッカじゃないの』

そんな声が聞こえた気がしないでもないけど、返事は返さずに オレは満たされた気持ちで目を瞑った。


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