捧げ物

□血林檎の木の下で
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豊かな町の広場の中に、一人の青年が居た


青年は、今しがたこの町へ訪れたばかりの旅人であった


「大きな木でしょう?」


ずっと眺めていた大樹から目を離した旅人は、隣に並んだ老人を見た


「えぇ、今まで色々な地を旅して回りましたが、こんなに立派な木は見たことがありません」


旅人がそう返事を返すと、声をかけてきた老人は人のよさそうな笑みを浮かべた


「あぁ、やはり旅のお方でしたか。
 物珍しそうにこの木を眺めているから、そうじゃないかと思ったんですよ。
 この木はね、『林檎』っていうんですよ」


「林檎、ですか?初めて聞く名前ですね」


旅人が興味深そうに答えたのを見て、老人はうれしそうにうなずいた



「この林檎の木はね、『血林檎』ともよばれているんですよ」


「『血林檎』・・ですか?」


旅人は老人の発言にとまどった


人々の笑顔に囲まれたその木には、『血』などという物騒な言葉は似つかわしくないと思ったからだ


予想通りの旅人の反応に、老人はかすかに苦笑した


「”なぜこの木が『血林檎』などと呼ばれているのか心底わからない”といった顔つきですな」


老人の言葉に、旅人は素直にうなずいた


「はい、どうにもこの木から『血』などという言葉はでてこないのですが」


「まぁ、そうでしょうなぁ。
 今はまだ残念ながら時期が違うので実っていませんが、この木には真っ赤な手のひらサイズの実がなるんですよ」


旅人は「なるほど」とうなずいた


「だから『血林檎』というのですね」


旅人の様子を観察しながら、老人は笑みを深くした


「まぁ、確かにそれも理由の1つではあるのでしょうけれども、この名の本当の由来は別にあるのですよ」


「それは一体なんなのですか?」


旅人は驚くと、老人に言葉の続きを尋ねた


「興味がおありかな?
 実はこの林檎の木の名前の由来は、ある1つの物語からきているのですよ。
 話せば少々長くなるかもしれませんが・・・・」


老人の言葉に、旅人はじれったそうに答えた


「構いません。
 ちょうど時間を持て余していたところです」


老人はその言葉にうなずくと、旅人を大樹の下のベンチに導き、その上に腰を下ろすとようやく口を開いた
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