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□陽の当たる場所2
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少し時を遡る。小平太が走り去ったその後。
長次が文次郎に近づき乱暴に胸倉を掴む。
無言。
それでもこの場に居る者には云いたいことは伝わった。
私はため息を吐き、腕を組んでことの成り行きを見守る。

「…………。」
「…へぇー。そういうワケか」
文次郎はニヤニヤと笑い言葉を続ける。
「こへに会ったらビービー泣かせてやるよ。それで泣き付かれたら儲けもんだろ」
バカ。心の中で呟く。
その時にはもう、長次の拳が文次郎の顔に叩きつけられていた。
鈍い音がして文次郎が倒れる。
私と同じように黙って成り行きを見守っていた伊作が、倒れた文次郎に向かって、キミ
は本当にバカだね。と言っていた。

「……仙蔵…」
倒れた文次郎などどうでもいいというように、長次は私の名を呼びさっさと歩き出す。
「あ、あぁ。」
それだけで小平太を探そうとしているのだと理解し、文次郎と伊作に背を向ける。
複雑な想いを抱えながら。

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