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□クリスマス2008・4
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ごろごろとベッドの上を転がっていた喜八郎が突然起き、白いタオルを顔に巻き付け口元を隠す。
「?」
「メリークリスマスーですよー」
疑問符の浮かぶ私を無視して、赤ジャージの暴君がごみ箱を逆さに抱えごみを床に撒き散らした。
喜八郎の奇行は今に始まったことじゃないが、相変わらず理解出来ない。多分してはいけない。
「なにしてるんだ!全くッ」
「滝が成績悪い子はプレゼント貰えないって言うから、ぼくがサンタになるんだ。ぼくは成績良し悪し関係なくプレゼントあげるいいサンタだからね、いい性格の滝にもあげるのさ」
眠そうな顔して言葉はトゲだらけ。コイツもなかなかいい性格してる。
「ごみがプレゼントなのか」
「滝にとってごみでも、他の人にしたら宝かも知れないだろう」
「じゃ他の人にやってくれ!私にはごみでしかない」
私が怒ると喜八郎は無言でごみを片付け、当然のように着替え始める。
「なんで着替えるんだ」
「どこか行こうよ」
コートを着込み準備万端という感じだ。ちなみにここは私の部屋で、喜八郎の着替え一式が置いてあるのはおかしいわけである。
「…寒いから部屋から出ないんじゃなかったのか」
「せっかくのクリスマスなんだから遊びに出ないともったいないよ。干からびたじいさんみたいなこと言ってないで早く着替えて。部屋でコート着てると暑いんだから」
いっそ清々しいくらいに自分勝手。それでもため息一つで付き合ってしまう私はなんてお人好しなんだろうか。
「で、どこに行く」
「カラオケかなぁ、滝はどこがいい?」
「カラオケ以外ならどこでも」
喜八郎は成績悪いクセに海外(マイナーなところ)の歌や民謡を好んで歌うため、私には上手い下手の判別がつかない上、内容も掴めない。故に苦手だ。宇宙人とカラオケに行くとこういう感覚になるんだろうか。
「じゃぶらぶら歩こう」
「…ま、いいけど」
目的がないことより気になるのは、なぜ喜八郎は口が開きっぱなしなんだろうかということだ。あんな間抜けヅラを晒していることをなんとも思ってないのか?
さんざん街中をさまよってから、喜八郎が真顔で呟く。
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