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□兵長と1
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兵長と

「やル」
普段から何を考えているのかわからないアサシンが、何があったのか手足と首を鎖に繋がれたボロボロの子どもを担いで執務室へやってきた。
「…何事だ」
「結納」
少々頭の弱いフシのあるアサシン。どの言葉と間違えているのかはわからないが、何を言おうとしているのかはなんとなく理解出来たため大きくため息を吐き首を振った。
「どこから攫ってきた?」
「買ッた」
「…何のために」
「隊長、子どモ好きだろウ」
そりゃ否定はしないが…この子どもをプレゼントだと言いたいんだろうが、犯罪者になるつもりはない。それでも足りない頭で考えて何かを送ってくれるのはありがたいことなので、完全に否定するのは躊躇われる。飼い猫がトカゲを捕まえて渡してきたような感じだろうか…今日は本当に好意だけをもらいたいところだ。
「要らナいのか」
憮然とした様子のアサシン。始めの頃は無表情、無関心、無感動、という欠落人間なのかと思っていたら案外感情的だったと知ったときの驚きを思い出した。顔が隠れているため表情は分かりづらいが、あの血のような赤をした目がそれこそ口程にものをいう。
「そう言ったらどうするんだ」
「研究室、に…寄付」
『結納』は違うと思ったのか少々考えてから言うが、正解にはたどり着かなかったようだ。人を人と思わないような者が在中する、『寄付』という表現が正しい扱いをするだろう研究室へと連れていかれた場合の映像が頭に浮かび、また首を振った。
「…分かった、私が預かる」
「……」
「その鎖だけどうにかしてくれ」
特に感情なく子どもの手足を戒めていた鎖を断ち切る。アサシンは子どもを床に転がしたまま、用は終わったとばかりにさっさと部屋から気配を消し去った。興味を失ったら本当にどうでもよくなるらしい。気に入らない相手がいれば逆恨みと言われようと追いかけまわしたりと子どものようだ。
「我が小隊は子どもばかりだな…」
感情むき出しで接してくる他の隊員たちを思い苦笑する。
「さて、大丈夫か?」
戒めが解けたというのに一向に動かない子ども。死んでやしないかと心配になるが、その不安は違うものになった。恐怖か不安か具合でも悪いのか、ふるふると小刻みに震えているのだ。明るい色の長い髪が床に広がり、戒めの解かれた手足と首には鬱血や痣、擦れて付いたであろう痕など痛々しく不健康な白い肌に映え、不安をいっそう煽る。
「本当に大丈夫か」
抱え起こすと子どもの体が強張るのが分かった。まず目についたのが、顔の赤黒い痣、そして目隠しするように貼られたガムテープ。その上から歪んだ眼鏡が掛けられていた。歪んだのはアサシンのせいかもしれないが、『商品』に対してこんな扱いをしていた奴らが眼鏡をまともに保管していたとも思えない。
目のテープを外してやると、髪と同じ色の涙で濡れた大きな瞳と対面した。口はへの字に歪み、今にも泣き出しそうだ。
「大丈夫か」
3度目の質問。見るからに大丈夫なわけがないが、とりあえず無害だと理解してもらわないと、名前や事情、家なども聞き出すことも出来ないだろう。
「……―ッ…ッ」
まだ状況を理解出来てないのか、危険と判断したのかボロボロと涙を零す。これだけ泣いているのに声が出ないとなると喉を潰されているのかもしれない。会話は諦め、怪我の治療を優先することにした。
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