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□兵長と2
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正義と

「ヒドいですねー」
消毒液などを抱えた藪医者が子どもの前に座る。
「なんで貴様がここにいる」
「中尉が呼び出したんじゃないんですかぁ?」
珍しく慌ただしい様子の医療部。出血や傷の深い患者を優先するため、子どもを診る医者が居なくなってしまった。仕方なく急遽呼んでもらったのは血の苦手な精神科の藪医者。本来これだって専門外だと文句を垂らすが、子どもの傷を見て真面目な雰囲気になる。表情は眼鏡とマスクで伺えないが多分真面目顔をしているのだろう。
「でも、骨折とか臓器の出血とか大きいものじゃないと治療という治療はないですよ。痣に擦り傷では冷湿布か軟膏塗って包帯で隠すくらいで」
「それでいい。このままでは痛々しいからな」
「それより、精神科の受診を勧めますよ。声が出ないじゃないですか」
「喉を潰されているんじゃないのか」
「違いますねー」
喋りながらもテキパキと仕事をこなしていく藪医者。相変わらず音もなく泣いている子どもに怯むことなく、涙を拭い体に触り警戒を解こうとスキンシップをはかっていた。
「傷も膿み出して清潔にしておけば多分…俺は薬出せないから、専門のにでも聞いて下さい」


「さて、」
耳や体の治療を聞き、滞っていた仕事を片付け終わったのが勤務時間を少し過ぎたころだった。本来人身売買の件も片付けなければならないのだが、アサシンは仕事用の人格になり一切語ろうとせず、赤い瞳も深い闇をたたえるばかりで表情を読むことも出来なかった。拷問や痛み、薬にすら慣れてしまったアサシンから情報を聞き出すなんてどんな根気のいる作業だろうか。それでもこのような子どもが居なくなるならと、諦めずアサシンに尋問する予定だが。
「帰ろうか」
「………。」
泣きすぎでぼーっとしている子どもに声を掛ける。どうも長い間動けなかったせいで、腕を上げることも立って踏ん張ることも、ただ座っていることすら大変疲れてしまうらしい。
子どもに自分の着てきたコートを着せ、抱え上げた。大して寒くはないが、服はボロボロで、こんな弱っている状態であまり人目に晒すのもまた不安にさせるだろうと思ってのことだ。
やはり抱えると体を強張らせ、不安そうに瞳を揺らす。さっきも思ったがこの子どもはやたらと軽い。薄い皮とスカスカの骨に、申し訳程度の肉しかついてないようだ。子どもは丸っこいくらいが健康的でいいのに。
昔はあの人の痩せ具合も病的だと思っていたが、これよりはまだマシだった。あの人はいまだに小さいままだし、身も心も健康とは言い難い。それを思うとこの子どもはどうなってしまうんだろうかと不安になる。
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