TEXTU

□手癖が悪い
1ページ/2ページ

帰りのHRが終わり、ぞろぞろと教室から出ていく生徒達。五時限目が体育だったため、体操服姿がちらほら見られる。
「きり丸、帰ろう!」
乱太郎が声を掛けると、おうと言ってきり丸は歩き出す。
「あれ、きり丸、イヤリングは?」
「え?!」
慌てて耳を探り、ついていないのを確認すると、床に手をつき探しまわる。
「着替えるときに落としたかもしれないね」
言って乱太郎はしゃがみ込んで一緒に探し始めた。
「………。」
「うーん、ないね」
教室中を探し終えたところで、きり丸が思いつく。
「体操服の袋の中かも」
袋を逆さまに振り、出てきた服を一枚ずつ振り、ひっくり返して、とするが
「ない」
「ないね」
「通ってきたとこ辿ってみる。乱太郎、先帰ってろよ」
「いいよ、一緒に探す。きり丸の大切なものは、私にとっても大切ものだもの」

「………。」
「乱太郎の純粋さを見ると、僕はどうしようもなく汚れた奴だと思うんだよ」
そう言う庄左エ門の左手には、小さなイヤリングが入っていた。
「俺もそう思うよ」
さらさらと学級日誌を書いていく庄左エ門を見ながら、金吾は言った。
「僕さ、計画通りになるのも好きだけど、ならないのも好きなんだよね。ほら、完璧なんてものはないじゃない?」
「聞いてないこと喋るなよ…」
「この後どうするか聞きたいのかと思って」
「そりゃ聞きたいさ。俺も共犯者扱いなんだろ?」
「お、わかってるじゃないか。でも、僕らにやれることはないね。成り行き任せだ」
「今回のは浅いなぁ」
「きり丸がたまたまイヤリング落としたから始めた計画だし時間がなかった、てのは言い訳かな。でもお節介さんのたくさんいる学校で良かったよ。きり丸に関わることなく乱太郎の悩みを解決出来る」
「…どこが正義だよ」
「僕は自分が正義だなんて言ったことないよ。ま、正義の反対はまた別の正義って言うからどう思おうと金吾の勝手だけど。さて、お楽しみはこれからだ。校庭に行こう。」

「来ないな」
「遅くていいんだよ。中等部も帰り始めるから」
「あ、乱太郎が来た」
「川西先輩も一緒だ。さすが乱太郎。いい人の周りには人が集まるね」
「よう、黒木。今日はなに企んでるんだ?」
「鉢屋先輩!」
いつの間にか後ろに回り込んでいた鉢屋が声を掛ける。
「別に企んでないですよ。乱太郎の悩みを解決しようかと思っているだけです」
「お前儲かってるだろ。いくら出す?」
「タダで協力してくれる人がいっぱい居るんで、協力は結構です」
「協力じゃなくて躍らされてるんだろ?」
ふんっと鼻を鳴らし鉢屋は背を向ける。
「さようなら」
「…先輩がいたってことは中等部が終わったってことだろ。もう誰かに渡していいんじゃないか」
「うーん、まだ少ない。それにこれは渡さないよ。ヤラセは好きじゃないんだ」
「じゃどうするんだよ」
「…こんなのちょっと投げてやれば、ね」
望むように変わっていくんだから
庄左エ門はにぃっと笑う。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ