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□お手玉
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しゃんしゃんしゃん、
小さな玉が手の中で踊る。
しゃんしゃんしゃん、
橙が横へ跳ねると、緑が落ちてくる。緑が横へ行くと、赤が落ち、横へ行き、橙が落ちてくる。その繰り返しだ。
しゃんしゃんしゃん、
聞こえる音はそれだけで、それがオレの世界となる。
しゃんしゃんしゃん…
その世界へ引き込まれていくとどんどん体が重くなって、オレは――…そして大きな後悔。
オレは何をした…?オレは――

しゃん、
ころりと赤い玉が足元に転がる。
ガヤガヤと煩い教室の中、本当に小さく澄んだ音がする。このやかましさに慣れていないと、聞き逃してしまうだろう。
「あぁ―!また落ちたぁ!!」
やかましい教室の中、声を張って喋る小平太。何十度目かの同じ台詞。
「‥ヘタクソ」
「言っちゃ悪いけど、本当にね」
「運動神経はいいのにな」
「2つで出来ないっておかしいだろ」
「………。」
全く続かないお手玉に、さすがに嫌気が差し口を出す級友たち。
「なんだよ、文次郎は出来んのか?」
「貸してみろよ」
文次郎は小平太から受け取った赤と青の玉を投げては横へまわし繰り返す。
しゃんしゃんしゃん――
「ほ?ら、お前よかマシだろ?」
隣りで口を尖らせる小平太に、これ見よがしに見せつける。
「2つ回したくらいでえばんなよな!」
「2つ回せないやつが意気がんなよ」
級友たちが揃って(子供だな)と思っているとも知らず、言い合いが続いている。
「はい文次郎、次は3つ回してみてよ」
「なんでお前にンなこと指示されなきゃなんねぇんだ」
「文次ぃ―あんなに偉そうに言ってたのに出来ないんだ―?!」
文次郎に絡まれる伊作、小平太は文次郎を挑発。
そんないつもの光景を、留三郎は一線引いて見つめていた。途切れた記憶を手繰り寄せながら

しゃんしゃんしゃん
「なんで元気ないの?」
「生理だろ」
しゃんしゃん
「…そういう冗談は女の子には言わない方がいいよ」
「昨日ヤリすぎた」
しゃんしゃんしゃん
「それもダメ」
「…お前上手いな」
「…?」
しゃんしゃん
「それ」
留三郎は玉を指す。
「まあね。」
「…ばあちゃん、みたいだ」
「褒めと受けとくよ」
「褒め言葉だ」
「そっか」
伊作が微笑む。
「………。」
しゃんしゃんしゃん、
小さな玉が手の中で踊る。
白が横へと跳ねると、黒が落ちてくる。黒が横へ行くと、赤が落ち、横へ行き、白が落ちてくる。その繰り返しだ。
しゃんしゃんしゃん、
聞こえる音はそれだけで、
しゃんしゃんしゃん…
その世界へ引き込まれていくとどんどん体が重くなって、オレは――
オレは…
「ぁ、寝ちまったんだ。」
「寝てたの?」
「寝た。寝ちまったんだ。その合間にばあちゃんが死んじまった。」
「…急になんの話?」
「お手玉見て、オレは寝ちまって、その合間に呆けてて足の悪いばあちゃんが外にでちまって、それで」
「…留、落ち着いて」
いつもより早巻きな口調。心中穏やかではないのだろうと、伊作は口を挟む。
「車にひかれた」
留三郎は伊作の言葉を聞き、一息吐いてから言葉を紡ぐ。
「…どのくらい昔の話?」
「6年前だ。…なんでこんな印象深いこと忘れてたんだろ?もうすぐ命日なのに」
首を捻る留三郎に、伊作は思いださせて申し訳ないというように眉を下げ一緒に行くと申し出た。
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