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□夏
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「うー…痛い」
空はすでに暗く染まり、街並みを塗りつぶしている。家から出て暫くして、仙蔵がしゃがみ込んだ。
原因はわかっている。
「…なんで俺のサンダル履いてんだよ」
「手前にあったから…あ、皮剥けた」
俺もしゃがみ込んで仙蔵の足を見る。白い足にやたら痛々しく映る、赤い擦り切れ。
まあ自業自得だな。
「サイズ合わなきゃそうなるだろ」
俺の言葉に口を尖らせる。
「痛いもうやだ歩きたくない」
「あのなぁ」
「おぶって」
「いやだ」
「じゃあいい、私は勝手に掴まるから」
言うと素早く背後に回り、俺の首に腕を回す。
足が痛いんじゃなかったのか、コイツは。
「てか苦しい…首絞めんな」
「あー、腕が疲れるなぁ」
「だーッわかったよ!おぶってやるから手を離せ!」
「始めからそう言えばいいものを」
人が本気で怒ったというのに、フンッと鼻を鳴らした上この言いぐさ。
俺じゃ相手になんねえってか?
「戻るぞ」
「うんうん、」

「ほら、絆創膏」
俺が渡そうとすると、仙蔵は足を差し出してくる。
「貼って。痛いから見たくない」
「…、」
家で騒がれると面倒くさい(家の人間は皆仙蔵の味方)。言われた通り貼っつける。
これでいいのか、俺。
「おし、行くか」
立ち上がり、明かりを消す。どうせ荷物重いとか言い出すだろうと仙蔵のハンドバックを持ち上げた。
「もういい、行かない」
「はぁ?」
仙蔵は窓際で座り込み外を見ながらいう。
いつも思うが、俺相手にはやたらワガママじゃないか?
「祭りは明日もやるだろ?今日は家から花火見るんでいい」
「…まあ、いいけど」
「なんか飲み物」
「あー、スイカ食うか」
「食う」
「ちょっと待ってろ」
「私も手伝おう」
仙蔵が立ち上がった瞬間、部屋が急に明るくなった。外を見ると、空にどでかい赤い花。
「もうそんな時間か」
遅れて音が響く。
「お前が珍しく協力的だからどっか爆発したのかと思った」
俺が笑うと仙蔵が胸ぐらを掴む。
俺に非がなくても機嫌悪けりゃ殴ってくるヤツだから、つい構えてしまう。
「くだらない」
「そうかよ」
ため息を吐くと、グイッと引き寄せられた。
で、唇が重なる。
「…ッ」
「でも、今日は機嫌がいいから許してやろう」
不敵な笑み。仙蔵に一番似合う顔だ。
まだ俺より冷たい唇の感触が残っていて、つい唇を見てしまう。
「……そ、うか」
「次はお前からな」
「…了解です」
仙蔵は鼻を鳴らし、また笑う。
コイツにはどうにも勝てる気がしない。
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