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□遺書。
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エルクが見舞いに行く度に、リーザの体調は悪くなっていった。
いつしか、エルクはつきっきりでリーザの看病をする様になった。
ただの過労にしては、おかしすぎる。
そう思い、医者に診てもらい、薬を貰った。
その直後、エルクは医者に部屋の外へと呼ばれた。
医者は、エルクの目を真っ直ぐ見ながら言った。
「彼女はもう長くありません。
黒死病にかかっています。」
エルクは一瞬、医者の言っている意味がわからなかった。
リーザが長くない…?
「延命の為の薬を渡すことはできますが、気休めにしかならないでしょう…。」
医者は続けて言いづらそうに言うが、エルクの耳には全く入らない。

嘘だ。
さっきも、普通に自分と会話し、冗談を言えるくらい余裕があるのに…。
そんなの、信じない。
「嘘をつくな!」
エルクは、医者の胸倉をつかんだ。
「診察し直せ…!有り得ない事を言うな!」
エルクは叫んだ。
「落ち着きなさい!
彼女の傍にいるべき貴方が、うろたえてどうするんです!」
医者は苦しそうに足掻きながら言った。
「エルク…?」
部屋の中にいるリーザが、心配そうに声を掛けた。

医者の言葉とリーザの声で、エルクは我に返った。
「すまない、リーザ。何でもない。」
エルクはそう答えつつ、医者を放した。
医者は自分の着衣の乱れを正しながら言った。
「信じたくない気持ちは分かります。
でも、事実は変わらない。
だからこそ、彼女を支える貴方が受け入れなければなりません。」
エルクは、弱々しく頷いた。

どうして…どうして…



「どうして、こんな事になったんだろうな。」
エルクの声は、風の中に消えた。
エルクが空に向かって手を伸ばす。
空はもう漆黒。星が綺麗に輝く。
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