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□その男、能天気につき。
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「もう分からなくていい。とにかく私が守ってやるから手紙を全部拾うんだ。分かった か?」
「はぁい。分かりました―。」
片手を上げ子供のような返事をして手紙を拾い始める秀作に利吉は大きくため息を吐い た。
それから程なくで「利吉さ〜ん、全部拾い終わりました〜。」と秀作から声が上がった
。拾っている間は特に動きの無かった敵に利吉は警戒を強める。
「そういえば利吉さん、なんで密書が落ちてること知ってたんですか?」
「…時間のないときに…キミは余計なことばかり気付くね。」
「はい?」
「いや、ごめん。なんで知っているかなんか、どうでもいいんだ。だから密書出して。 」
「へ?どうしてですか?」
なんでこうも理解するのが遅いんだか。
狙われているというのにペースを崩さない秀作にさすがに苛立ってくる利吉。
「だ―か―ら、キミが密書持ってたら敵から逃げられないだろ?今はキミが狙われてる んだぞ?
私が持ってたらキミは逃げられるだろ。
だから、手紙を全て見せてくれるかい
?」
「わ、わかりました。」
口の端を引きつらせ早口でまくし立てる利吉に、
秀作は後半部分しか理解出来ぬまま手紙 の束を渡した。
「ありがとう。・……これだ。」
ぱらぱらと素早く捲り書類を探し当てる。
「どれですか?」
「キミが読めるのか?」
そう言って書類に書かれた漢字の羅列を秀作に見せる。
「…読めません。」
残念そうに言う秀作に苦笑いし書類を懐にしまい込む。
「だろうね。さて、これでやっと帰れるよ。」
「お仕事終わってよかったですね。」
にこりと笑う秀作に一瞬つられて笑う。
「……ああ、これでキミに用はない。すぐ敵が来る死にたくなければ学園まで走れ。」
「え、は、はいっ」
急に真剣な顔になり秀作の背を押す利吉に、走り出しながら慌てて返事をした。
走り去る背中に利吉は不機嫌な笑みを浮かべ小さく呟く。
「さよならだ、小松田秀作くん。」
ざくっと足元に手裏剣。
顔を無表情に戻す。
敵は二人組だった。
一人は秀作を追いかけて行ったから今は一人。
どうってことない。
苦無に付いた血を、目の前に転がる忍びだったものの着物で拭う。
「小松田くんもこうなっている頃かな。・・・だめだよね、密書だって言ってるものな んか覗いちゃ。ろくな目に遭わない。」
森の中に手紙を撒き散らして転がる秀作の姿が難なく思い浮かび口の端が上がる。
「でも、悪運強そうだから偶々いた生徒やら先生やらに助けられてたりしそう…。」
考えながら血を拭った苦無をしまい込む。
「…そのうち、忍術学園に行ってみようかな?」
そこまで言うと利吉はその場から姿を消した。

そこから少し離れたところで湿った風に大量の手紙が飛ばされていた。
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