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□年始
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どんッバシャンッ
「ぎゃ!」
「わっ!」
「あ」
慌てた伊作は波打ち際なら小平太もすっ飛ばさないだろうと考え、墓穴を掘ったのだ。ぬかるむ足場に2人の足はもつれ、伊作は前面水没。小平太も足首まで浸かっていた。
「伊作…勝負ごとに燃えた小平太が周りを確認するはずないだろ」
「ひぇぇえッ寒い寒いッ!死ぬ死ぬ死ぬッて」
バタバタと暴れる伊作の背中をバンバン叩き、小平太が笑う。
「あははっごめんいさっくん、私も足死にそう」
「早く火にあたらせてもらおう」

突然answerが流れだす。小平太が慌てて荷物をあさり、歌い続けるケータイを引っ張り出した。
「あ、しげちゃんからメールだ。えーと[明けましておめでとう、こちらは初日の出やっと拝めたよ]だって!もう出るとこは出てるんだね!」
伊作が水没してから1時間ほど、濡れた服を焚き火で乾かしているところだ。空はどんどん白み、夜が明けようとしている。風は緩いが相変わらずの冷たさで、さすがにいい加減にしてくれと言いたくなる。
「今6時半だから、こっちもそろそろじゃない?」
「しげちゃんって晴のバイトか」
「うん、けっこう前から仲いいんだ!」
小平太はまた走り出す。
「…元気だね」
「そうだな…」
まだ日は顔を出さないが、太陽が目の前にあるようだ。暖かくはならないが。
「ま、こんな正月も…」
「ぼくはイヤだよ!」
火にあたりながらぶりぶり怒る伊作。私もいいと言い切れる元気はなかった。
「ねー仙ちゃん、いさっくん!しげちゃん近くにいるから迎えに来てくれるって!ラッキーだね」
「おー、…喜んでいいのかな」
「いいんじゃないか、バスも電車も周りの視線がツラいぞ」
少し乾いてきたとはいえ、そんなはしゃいだ格好していたら目立つに決まっている。そんなヤツの傍にいるのは遠慮したい。
「そだね、甘えさせてもらお」
縮こまって暖をとる伊作の隣に座り込んだ。全身から疲労感が滲み出しているのでさすがに同情。
「帰ったら餅焼いて雑煮でも食うか」
「うん、ゆっくりしたいね」
「私は餅3つと雑煮と、おせちと焼きそばと焼き鳥とー!」
「…う」
「…ぐ」
そんな感じで時間は過ぎ、日が出る前に迎えが来た。少し粘ったが結局初日の出を拝むことなく海岸をあとにした。
それから3分も経たないうちに日が出始め、車の中で初日の出を見ることになった。
年始めからこんなグダグダした感じ。私たちらしくて好きだけど、今度はもう少し体に優しいグダグダにして欲しいものだ。
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