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□雪に、とけず
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(市日)



深々と積もる雪。
世界を白に染めていく。視界すら染まってしまいそうな、そんな夜。

僕は十番隊隊首室に足を向けていた。歩くたび雪が潰れる音がする。しゃりと軽い音をたてて跡を残す。

(嫌な雪やなぁ)

ふと頭を過ぎった言葉に、少し驚く。
自分はそんなに雪が嫌いだったか?

そんなことはない。
寧ろ白い雪はあの子供を思い出させて心を穏やかにする。ついでに言うと顔はにやける、事がある。

無意識に思ったことだか、だから尚更心に引っ掛かる。
しかし考えても答えが出ないので、仕方なく心の片隅に追いやる。

そしてまた、しゃりと雪を踏み締めながら足を進める。





隊首室の前までたどり着くと、何故かこの寒空の下、部屋の主の霊圧が中庭から微かに流れてくる。
なので中庭に寄ってみると、当然だが、そこも真っ白に染まっていた。

その中に、ぽつんと、白に溶け込むように小さな人影があった。
日番谷だ。

我ながら笑ってしまうような話しだが、彼がそのまま白い景色に掠われてしまうのではないかと思った。

そんな不安を馬鹿な話しだと頭の中から締め出す。

何をしているのかと思って近づいてみた。

彼はただ単に空を見上げているだけだった。

ただ、その身に纏うのは薄い寝間着とその上に羽織りを羽織っているだけ。

「寒くないん?」

最初から霊圧を隠していない僕に日番谷が気付かないはずないのに、身じろぎ一つしない彼に問い掛けてみる。

「…寒ぃ」

少し間があったが、やはり驚く様子もないので気付いていたのだろう。

「せやったら、何で中に入らんの?」
「…寒い」

話しが噛み合っていない。おまけに、寒いと言いつつもそこから動こうとはしない。

「風邪引いてまうよ?」
「…あぁ」

どこか上の空な返事が冷たい空気に溶けていく。

そこでふと、気付いた。
さっきから一度も日番谷の瞳がこちらを向いていないことに。普段ならば何かに集中していても、こちらに気がつけばちらりと視線を寄越すのだ。
それが今は、彼の碧緑は重く暗い空しか映していない。

(なんや、苛々するわ)

それは、こちらを向かない彼に対しての苛立ちか。それとも彼の視線を縛りつけて離さないこの雪に対して?

(きっと、どっちもや)

どうすればこの気に食わない雪を止めさせられるだろうか。どうすれば、あの子の瞳を雪から切り離せる。













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