陰陽の華嫁

□拾伍
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 「…馬鹿、野郎…っ」







苦し気に漏らされた、呟き。
それが鼓膜を揺らした
刹那

バサ、リ
漆黒の少年の視界を、桜の絹布が深く覆った。
そして
鶸色の袖を纏った腕が
不意に、強く引かれる。


…桜の彩に覆われた視界に、僅か覗く
椿の彩りの髪先に
背に回され、腰に絡められた腕の強さに
抱き締められて居るのだと、脳が理解した。

光代は近過ぎる相手の身体に、反射的に離れようとするが
後頭部に移された掌が
それを、許さない。

それでも、抗おうとする少年の鼓膜を揺らした
微かな震えを宿す…声音

指先で握り締める
鶸色の
、紬





「想われる価値の無い奴なんて、居ねえ!」






…抱き締めた温度は
どこか
小さく、か細かった。
背は僅かに低いだけだ。
だが
、だが

小さかった、のだ。

それなのに…
この肩が背負うものは
背負わされてしまった、ものは
鉛の枷よりも
、重く
苦しく…。


己と、穏やかな夜色を隔てる
布達が
こんなにも、
憎い





(それでも)

(唯…離したくないと、想ったんだ)





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