陰陽の華嫁

□壱
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「…で、っけぇ…」





一年の月日を愛用した漆黒の学ランが、夏風に吹かれる。
生温いそれに頬を撫ぜられたまま、丸くした少年の金色の瞳に映るのは
純和風の屋敷。
重ねた年月の重さを感じさせる、木造りの門の向こうには
広大な敷地。
庭師の手によって美しく整えられた木で
羽を休めた雀が、小さく鳴いた。

指先で掴んだメモ用紙に刻まれた住所を、一度確認し
今、目前にした家屋で間違っていない事に
鈴木 十夜(トオヤ)は微かな吐息を吐く。




−−−祖母が亡くなって、半年。

両親も幼い頃に既に他界し、祖父もまた既に先立っていた。
父は実家と絶縁状態であった為、十夜は母方の実家に引き取られる事になり
故郷である雪國、新潟を離れ東京へと赴いたのだ。
まさか…こんな豪邸が待ち受けているとも知らずに。





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