陰陽の華嫁

□壱
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「ウチの親、駆け落ちだったんかな…?」



祖母からも聞かされていない目の前の光景に
項を擽る紅玉の彩の髪先を、指先で掻きながら
門を潜るのを躊躇う十夜の視界に
不意に、人影が映る。


門の向こうの世界
朝露を飾る、淡い薄色の紫陽花を切り摘む
一人の少年…。
萌葱色の着物に身を包み、緩やかな流れで花弁に触れるその表情は
姿を隠すように頭部から掛けられた絹布で、窺えない。

ふと
自分よりも僅かに細い腕が抱いた紫が、一輪
ぽとり、と
落ちた。




「……ぁ」




少年の唇から零れた、呟き。
身を屈めて、地に身を委ねるそれを拾おうとすれば
抱えた別の紫陽花が落ち掛ける。

それに気付き、無意識に駆け寄った十夜は
落ちた紫を拾い上げ、少年の腕の中の花束へと
柔く差し込んだ。

離れた場所からでは分からなかったが
少年は自分よりも、少しばかり視線が低い。
予想だにしなかった見知らぬ者の存在に、十夜を見上げる瞳は
穏やかな夜の彩。






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