陰陽の華嫁

□弐
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揺れる濃藍の髪の下、眼光鋭くした白銀が十夜を射抜く。
たった一瞬の刹那に、現実から切り離された感覚に呆けている金色に
萬月(ヨシヅキ)と呼ばれた少年は、わざと相手の鼓膜に届くように
舌打ちを漏らした。




「コイツが十の者だと…冗談はよせ。こんなアホ面に崇爾の血など流れてるものか」

「テメェ…っ。ふざけんなよ、ファンタジックお坊ちゃんが。
普通の人間がこんな展開に付いてけるか!
何だよその虎!?現実的に考えておかしいだろ!!」




美しい外見からは似合わず、吐かれる悪態に
返されるのは怒声。
指先を指された白虎は、その純白の毛を纏った尾を揺らし
濃藍を護るように足踏みする。
重いその足音は確かに鼓膜を通り、現実である事を教えた。

混乱する思考は容易くは落ち着かず、荒い吐息を吐く甥に
当主は藍染の着物の袖を組み、翡翠の瞳を伏せる。

障子の向こう、鹿威しの音色だけが
静寂を保っていた。





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