陰陽の華嫁
□弐
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「白虎を戻しなさい、萬月。彼はこの家について何も知らないのだ。
混乱させてしまっては可哀想だろう」
「………」
父の宥めに萬月は白虎の額を掌で撫ぜる。
すると、虎であった筈の純白は白光の輪を放って
一枚の札へと姿を変えた。
又しても、理解し難い光景が視界に映り込んだが
疑問を声音に換えるよりも先に、当主の指先により
無事であった座布団へと席を勧められる。
赤髪と濃藍が腰を落ち着かせたのを確認し
当主は唇を開いた。
「驚かせてしまって悪いね。息子は嫁の事となると、どうも周りが見えなくなってしまう」
「とんでもねぇ愛妻家だな。嫁さんも苦労すんぜ」
「…新参者でありながら、跡継ぎの嫁に頭を下げさせるなど
礼儀知らずも良いところだがな」
「「………」」
金色と白銀の間で微かな火花が散り、当主は両腕を組み直し
小さく吐息を吐いた。
それでも、悲惨な姿を変えた室内に眉一つ…顔色一つ変えぬのは
流石は、当主の肩書きを持つ者の証であるのか。
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