陰陽の華嫁

□四
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当主との挨拶を終え、自室へと案内された十夜は
ホテルのように和室と隣接された露台から
眼下に広がる日本庭園を望む。


ふわ、り

ふと、鼻孔を掠める柔い芳香。
懐かしいそれに視線をそちらへと移せば
澄んだ絹色が視界に映った。

夏椿…。
離れた故郷で、今は亡き祖母が愛しみ
育んだ花。
数時間の刻の前まで居た筈の雪國が
遠く懐かしい。

一度だけゆっくりと瞼を下ろし、十夜は透き通る甘い芳香を
身の内に受け入れる。

緩い夏風に撫ぜられた、空色の風鈴の奏でが
ちりぃ、ん
と、澄み渡る青空に抱かれた。
それに誘われるように見渡した庭園に見つける…揺れる桜色。


…名を呼べば、あの少年は気付いてくれるだろうか。
だけど、また、遠ざかってしまうのかもしれない。




「ぅ〜……クソ!もやもやしてんのは、らしくねぇぜ!」




脳内に過ぎった、惑いを振り払うように
紅玉の彩の前髪を掻き乱し、十夜は障子に指先を掛け
自室を後にした。


風鈴は唯、夏風に揺すられて…。




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