陰陽の華嫁

□四
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腕に抱えた竹で組まれた籠に
優しく入れられていく
指先で摘み取ったハーブ。

一見、日本庭園に見える崇爾家の庭は
所々に和を乱さぬ程度の、洋を取り入れており
歩を進める者を楽しませた。
四季折々、時の歩みに表情を変えていく彩り達は
漆黒の瞳を輝かせる。

涼やかなアップルミントの香りを感じた刹那。
椿の紅が首筋から覗いた。




「ぉっ、良い匂い!ここハーブまであんだ」

「…っ!?」




近くから鼓膜に届いた声音。
触れ合いそうな距離で揺れる、短な赤髪に気付き
光代は反射的に身を離す。
腕の内から零れ落ちた籠が、新緑色を舞わせ
軽い音を立てて、地へと落ちていった。

包帯に包まれた指先がそれに、伸ばされる事はなく
肩から流れる絹布を握り締める。




「おいおい、また落としてんぞ」

「十夜、殿…あの」

「ん?」




先程、出逢った時と同じく
腕の中の彩を零した漆黒に、苦く口角を上げ
十夜は地に舞ったアップルミントを拾い、籠に指先を掛ける。





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