陰陽の華嫁

□伍
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広い座敷に列乱さず並べられた、朱色の膳の前には
見知らぬ親族の姿。

上座に当主とその妻
次に、跡継ぎである萬月
その横には、許婚の光代。

穏やかな夜の彩は、桜色を纏っていなかった。


女中に席を勧められ、十夜は漆黒と向かい合う膳の前に
腰を下ろす。
自身に向けられる親族達の、値踏みをするような視線に
無意識に強張る身体。

隣に座る叔母が、亜麻色の前髪を揺らして
品の良い紅を差した唇で、柔らかい音を紡ぐ。




「そんなに緊張しなくても良いのよ、十夜くん。
今宵は、あなたの歓迎会でもあるんだから」

「ぁ…ありがとうございますっ」




三十路半ばには到底見えぬ、白銀の円らな瞳。
後頭部で纏め上げた、緩く波打つ髪の中
小さな鈴を飾った簪が
りぃ、ん
と仄かな音色を鳴らした。

鼓膜を揺らしたそれに、肩から力が抜けて行くのを感じ
十夜は日輪の輝きを灯した黄金の瞳を、当主の翡翠に重ねる。
向けられた甥の視線に、萬人は微笑を浮かべ
形整った唇を開いた。





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