陰陽の華嫁

□陸
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眉間を顰め、焦燥を滲ませた千蔭が重い腰を上げ
立ち上がり掛けた刹那。
萬月は紫紺の着物の裾を靡かせ、障子を引く。
縁側から零れた、朧の月灯が
端正な横顔を照らした。




「俺達が行きます、小父様方はこちらでお待ちを。
…光代、お前も来い」

「はい」




次期当主の声音に頷きを返し、漆黒は障子の向こうへと歩を進め
濃藍の背を追う。
それに倣い、客間を後にする三人の青年。
指先には、気付かぬ間に取り出された一枚の札。

訳の分からぬ儘、過ぎて行く刻の針に置き去りにされた十夜は
トン、ッ
と、外と内を隔つ障子の音色に
意識を刻に追い付かせた。




「な…何がどうなったんスか!?
さっきの音って…っ」

「どうやら、物の怪の襲撃にあったようだ。
大きな妖気は感じない…あの子達なら大丈夫だろう。
十夜くんは私達と共に、ここに居なさい」




当主の落ち着きを宿した低音の意味は、やはり理解の範疇を容易く超えていたが
唯、今の現状で己は無力なのだと
…黄金は、知る。





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