陰陽の華嫁
□捌
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俯かせた両の瞳をそのままに
小さく頭を振る、許婚。
袖に絡められた指先の意味に…萬月は
唇を、閉ざすしかない。
無理矢理に押し込んだ声音が、喉奥を灼いた。
「血の臭いが籠もってきたな」
「…申し訳、ございません。お食事の邪魔を…」
「そう思うのなら身形を整えて来なさい。
次期当主の嫁が血塗れのままという訳には、いくまい」
「…はい」
頭を下ろす漆黒を見遣る事もせず、千蔭は着物の裾を翻す。
ト、ンッ
静寂に似た響きで、和室の灯を遮る襖。
唐紙の、一羽の雲雀
暗闇の腕に緩く抱かれ
はら、り
堕つる
…淡い月灯だけが、穏やかな夜の彩を照らした。
細月よりも、儚い光彩。
朧に霞みそうな少年に
黄金と濃藍の胸奥に募るは…焦燥…。
「「光代…」」
「!」
不意に、鼓膜を揺らした呼び声。
しかし、それは一つではなく
重なり合わされた二つの音色。
偶然のそれに瞳を丸くしたのは光代だけではない。
紡ぎ手達も、予想だにしなかった声音に
お互い顔を見合わせた。
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