陰陽の華嫁

□拾四
2ページ/5ページ




スル、リ

鼓膜を揺らす、凛とした響きの
だが、柔い低音。
聴き慣れたそれと共に
静かな音色を奏で、障子が開かれる。
当主の許しを得て、畳に踏み込んだ少年。

とく、ん
左胸が訳も知らず、鈴の音を鳴らした。


桜の彩が揺れる。
丁寧に指先で抱いた、盆の上
藍白と赤紫の錦玉を纏う、白餡。
紫陽花を模した和菓子。

瞳を楽しませ、食欲を擽るそれに
十夜が両の黄金を輝かせる中。
…室内に落つる、静寂の
帷。

運ばれて来た茶菓子は、漆黒の背後に控えていた女中に手渡され
木造りの卓
翁達の前に、一つ
一つ
差し出された。


己の肌が触れてしまわぬよう
少年は、距離を取っているのだろうか…?

そう、十夜は推測するが
それは…翁達の、輝きを失った瞳に
否定される。


瞳の奥底…潜められた、畏怖の感情。
千蔭が見せた…鋭利な刃物の鈍色とは、違う
拒絶の盾


…何故
何故、あの少年が
こんな視線を受けなければ、ならないのだ…。


左胸の水面を
苛立ちの指先が、突く。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ