陰陽の華嫁
□拾伍
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振り向けば、椿の彩。
駆けて来たのか、小豆色の袖が
ひら、り
揺れている。
「十夜、殿…」
「また泣いてんな。
…なぁ、何がそんなに辛いんだ?
そうやって泣くぐらい…何が、辛い…」
逸らす事なく向けられる、黄金の瞳は
仄かな哀の彩。
…その彩りが、左胸を刺す。
鈍く痛むそこを、鶸色の上から指先で握り締めた。
「どうして…どうして、そんなにも、お優しいのですか…。
俺には…想われる価値など、無いのに…」
「何を…っ」
「俺は両親を殺しましたッ!」
−−十夜の紡ぎを遮るように…吐き出された声音。
鼓膜を震わした、聴き覚えのないそれが
十夜の肩を震わす。
見開かれた黄金の、傍
つ、ぅ…
伝う
一筋の、雫。
鉛の重さで…落ちた静寂の腕の、中
動きを赦されるのは
か細く
微か、に紡がれる
少年の音色だけ。
「…俺が神子姫であると分かったのは…五つの時でした。
それが分かったのと同時に…家が
黒龍の襲撃に、あったんです…」
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