陰陽の華嫁

□拾陸
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 「そんなに…」

 「そんなに、優しいのに」



 「 どうして、オレを殺したんだ 」






風が、吹いた

葉月を切り裂いた
冷えた
、風が。




「十、夜…殿…」




カラ、ン
指先で抱いていた如雨露が、石畳に堕ちる。

…ピシ
ピシ、ッ

鼓膜に届いた罅割れの音色。
黄金の瞳の、目尻を濡らし
罅割れた頬を伝う
一筋の
、雫。


左胸が打ち出す、早鐘。
次第に荒くなる呼吸を吐き出し、少年は震える指先を伸ばした。




「そ、んな…何で…どうして…っ」

「…光、代…」

「十夜、殿…十夜ど、ッ!」




−−パァン、ッ


儚く
脆い、硝子の奏でを鳴らし
十夜の身体が砕け散る。

ふぁさ、り
地に落ちた小豆の彩。
石畳に、力の抜けた膝を付いた光代は
主を失くしたそれに、惑う指先を這わした。

震える指の腹に触れるのは、纏う者を消した
…布だけ。




「十夜、殿…っ?
…十夜殿ッ、十夜殿ッ!!」




返される声音など…無い事を知りながら
少年は、名を叫び続ける。




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