陰陽の華嫁
□拾漆
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鼓膜を優しく抱く低音の揺らしに、夜の彩は
青年の元へと歩み寄る。
纏った鴇鼠の羽織りの下、微かに肩を震わす少年に
百(モモ)は下ろしていた腰を上げ
ふわ、り…
自身の膝に掛けていた、灰桜の彩の絹布を纏わせた。
不意に、己の身体を暖めたそれに
戸惑いがちに瞳を揺らす光代を、安堵させるように
浮かべられる
緩やかな曙、の
微笑み
「怖い夢を、見たの?」
「…っ」
「大丈夫だよ…」
左胸の、奥を
見通す
東雲の彩の瞳。
伸ばした掌に、夜色に怯えを滲ませる少年の頬を
灰桜の絹布で、柔く、包む。
布越しに微か…伝う温度。
−−…脳裏に重く蘇る、夢
反射的に逃れようとした光代を
鼓膜を揺らす穏やかな声音が、呼び止めた。
仄かに丸く波打つ、金糸を
照らす、淡い月灯
透き通る
屑星
、瞬いて
「僕の唄を聴いて。君の…
光代の為だけの、唄だよ」
「…百、殿…」
戸惑いも
、躊躇いも見せずに
青年は、純白の包帯に包まれた掌を掬い
先程まで自身が腰掛けていた岩に、少年を導く。
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