陰陽の華嫁

□拾漆
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カ、ラン
コロ、ン

下駄の
奏で


夜色の隣に腰掛けた、淡い金糸
さら、り…
夜の風に靡く。

形整った唇に添えられた、篠笛が
柔く鳴いた。



…懐かしの
望郷の、旋律

屑星
描く、軌跡を
指先で撫ぜ

柔風に、たゆたい
鼓膜を抱く
、母の
面影



緩やかな刻を口ずさむ、笛の音色が
少年の胸奥に堕つた、鎖の鈍色
帳、を
慈しみで癒やす。

清明の芳香を纏う
篠笛の…囁き…


幼子を誘う
その奏でに
不意に崩れ落ちた少年の身を、奏者が抱き留めた。

…瞼に隠された、二つの穏やかな夜の彩。
唇から、微か漏れる
安らかな寝息。

薄く光代の目尻を彩る…椿の、薄紅が
抱いた身体を…真暗い何かが蝕んでいる事を、教える。
それを撫ぜたくとも
触れる事すら赦されぬ、己の指先を
歯痒く感じながらも
、唯

百は愛しみの微笑を、浮かべた。




「良い、夢を…」




幼き頃から、近く
然れど
、遥かな…その夜色が
幾度、廻る
日の輪の下

笑んでくれるように
、と

篠笛は
囁いて……−−




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